デジタルノマドビザ / 制度の解説とプロジェクトの歩み
2024年4月1日、日本にデジタルノマド向けの在留資格が生まれました。制度の中身と、その制度化を後押しした RULEMAKERS DAO 地域SubDAO の提言活動の記録を、一次資料としてまとめています。
場所に縛られず世界を旅しながら働く「デジタルノマド」。世界40カ国以上が専用のビザを整備するなか、日本には長らく該当する在留資格がありませんでした。RULEMAKERS DAOは、当事者・専門家・政治家を巻き込みながら、デジタルノマドビザの制度化に向けた提言を重ねてきました。
2023年6月には、政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に関連する方針が盛り込まれ、2024年には日本でもデジタルノマド向けの在留資格が新設されました。市民発の提言が、国の制度を動かした一例です。
制度化後は、自治体・関連団体・業界関係者が連携してデジタルノマド誘致を推進する「デジタルノマド官民推進協議会」の設立を主導し、当DAOが協議会の事務局を務めています(副会長には当DAOの牧野裕貴が就任)。
English: Japan’s Digital Nomad Visa — requirements, and how it was created
本ページは、制度化を提言した側の記録と、できあがった制度の概要を並べて掲載しています。RULEMAKERS DAOは在留資格の申請取次・代行を行う事務所ではありません。実際の申請手続は、出入国在留管理庁の公式ページおよび在外公館の案内をご確認いただき、必要に応じて行政書士・弁護士等の専門家にご相談ください。
The System
制度の現在地
日本版デジタルノマドビザの正体は、在留資格「特定活動」(告示53号)です。
「デジタルノマドビザ」という名前の在留資格があるわけではありません。制度上は在留資格「特定活動」の一類型として、告示53号(本人)と告示54号(帯同する配偶者・子)が新設されました。主な要件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| できる活動 | 外国の団体との契約に基づき、情報通信技術を用いてその団体の外国にある事業所の業務に従事する活動/情報通信技術を用いて外国にいる者に役務を提供し、又は物品を販売する活動 |
| できない活動 | 日本の公私の機関との雇用契約等に基づく就労活動。資格外活動許可も原則として認められない |
| 年収要件 | 申請人個人の年収が1,000万円以上であること(本国の納税証明書・所得証明等で立証) |
| 医療保険 | 死亡・負傷・疾病に係る民間医療保険に加入していること。傷害疾病の治療費用補償額は1,000万円以上が必要で、滞在予定期間に対応していること |
| 対象となる国籍等 | 出入国在留管理庁が定める対象国・地域一覧に掲げる国籍等を有すること(査証免除措置と租税条約等の有無が基準とされています) |
| 在留期間 | 6か月(更新不可)。出国後6か月以降であれば、再度この在留資格で滞在可能 |
| 在留カード | 交付されない |
| 家族の帯同 | 可能。扶養を受ける配偶者・子は告示54号で帯同でき、在留期間は同じく6か月以内(更新不可) |
出典:出入国在留管理庁「在留資格「特定活動」(デジタルノマド及びその配偶者・子)」。要件・対象国は改正されることがあります。申請の可否は個別事情によりますので、必ず最新の公式情報をご確認ください。
The Gap
なぜ専用の在留資格が必要だったのか
提言を始めた2023年当時、日本にはデジタルノマドが合法的に長期滞在しながらリモートワークできる在留資格がありませんでした。既存の3つの選択肢には、それぞれ構造的な穴があったからです。
| 既存の選択肢 | 何が問題だったか |
|---|---|
| 短期滞在(観光等) | 滞在は最長90日まで。90日を超えて滞在したいデジタルノマドのニーズに応えられない |
| 就労ビザ | 日本の企業等との雇用契約が前提。海外企業に雇用されている人やフリーランスは、そもそも要件を満たせない |
| ロングステイ(特定活動・観光目的) | 預貯金3,000万円以上などの要件が厳しく、一般的なデジタルノマドが使える制度ではなかった |
「長期に滞在するが、日本で就労するわけではない」——この領域だけが制度の空白でした。私たちはこれを“第4の観光客”と呼び、空白を埋める提案を続けました。当時の解説は デジタルノマドビザ Q&A に、提案の全文は ご提案(2023年6月・資料全文) に残しています。
Market
なぜ各国が誘致するのか
デジタルノマドは、“第4の観光客”です。
滞在の長さ(長期↔短期)と生活拠点(国内↔国外)で観光客を分類すると、「国外から来て長期滞在する」領域だけが空白でした。デジタル化・グローバル化・ポストコロナといった変化のなかで、この空白を埋める存在がデジタルノマドです。彼らは短期の観光客と比べて滞在が長く、その分だけ地域に落ちるお金も大きくなります。だからこそ各国が競って制度を整えてきました。
私たちが2023年6月の提案資料でまとめた、当時のデータは次のとおりです。
いずれも2023年6月の提案資料時点の数値です(出典は 提案資料全文 に記載)。当時すでに43カ国がデジタルノマドビザを導入し、2023年4月には隣国・韓国も導入を決定していました。職種はマーケティング・IT/ソフトウェア・デジタルデザインが上位を占め、年収5万〜25万ドル(約700万〜3,500万円)の層が全体の34%。66%が1カ所に3〜6カ月滞在するとされていました。「長期滞在するが日本で就労はしない高所得の知識労働者」——これが、日本が取り逃していた層です。
History
活動の歩み
- 3月21日デジタルノマドビザ・プロジェクト キックオフミーティング
- 4月19日武井俊輔 外務副大臣(自由民主党)を訪問・提案
- 4月26日政府「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」に記載
- 5月8日Twitterスペース「デジタルノマドビザ導入前夜 よりよい制度のために私たちにできること」開催 (X)
- 5月19日今枝宗一郎 衆議院議員(自由民主党)を訪問・提案 (X)
- 5月30日『新時代のインバウンド拡大アクションプラン』に記載 (観光庁)
- 6月6日「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版案」に記載 (PDF)
- 6月7日「経済財政運営と改革の基本方針2023(原案)」に記載 (PDF)
- 6月9日ワーケーション推進議員連盟が、デジタルノマドビザについて9省庁を含め議論・決議 (X) (記事)
- 6月16日「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」閣議決定 (PDF)政府方針に反映
- 7月11日Twitterスペース「デジタルノマドが生きやすい日本 ビザの政策や日本の関心ごとなどについてのディスカッション」開催 (X)
- 8月30日「未来を旅する〜デジタルノマドビザの可能性〜」Zoomウェビナー開催 (X)
- 10月9日「第1回 日本デジタルノマドサミット」にて、「日本版デジタルノマドビザの早期制度化」に向けた共同宣言を発表 (詳細)共同宣言
- 12月14日「世界で注目されているデジタルノマドとは 〜長期滞在から考える観光市場の可能性〜」Zoomウェビナー開催
- 2月15日武井俊輔 衆議院議員(自由民主党)を訪問・意見交換
- 3月29日デジタルノマド向けの在留資格を新設する法務省告示が公布
- 4月1日日本でデジタルノマド向けの在留資格(特定活動)の運用が開始。市民発の提言が制度化につながりました。制度化
- 9月19日自治体・関連団体と連携し「デジタルノマド官民推進協議会」の設立を発表 (詳細)
- 10月16日「デジタルノマドシンポジウム」を主催(東京・有楽町 Tokyo Innovation Base/後援:観光庁・JNTOほか)し、デジタルノマド官民推進協議会の設立を宣言。当DAOが協議会の事務局を務め、副会長に当DAOの牧野裕貴が就任 (協議会公式サイト)協議会設立
Proposal vs Result
提言と、実際にできた制度
提言がそのまま制度になったわけではありません。2023年6月の提案資料で示した要件案と、実際に新設された在留資格を並べると、どこが通り、どこが通らなかったかが見えてきます。制度化のプロセスを検証できるよう、当時の提案は改変せずに公開しています。
| 論点 | RMDの提案(2023年6月) | 実際の制度(2024年4月〜) |
|---|---|---|
| 在留資格の新設 | 「特定活動(デジタルノマド)」の新設 | 実現(特定活動 告示53号) |
| 収入要件 | 1カ月あたり日本円で40〜50万円以上+相当額の預貯金 (年換算 約480〜600万円) |
年収1,000万円以上 提案よりも高い水準に |
| 対象者 | 国外の機関に雇用されている/独立して事業を行っている/経営・管理を行っている のいずれか | おおむね同趣旨(外国の団体との契約、又は外国にいる者への役務提供・物品販売) |
| 滞在期間 | 長期滞在を可能にすること(短期滞在90日の壁の解消) | 6か月・更新不可 90日の壁は超えたが、上限は設定された |
| 家族の帯同 | 当事者のニーズとして提起 | 実現(告示54号で配偶者・子の帯同が可能) |
提案の全文は デジタルノマドビザ創設のご提案(2023年6月・提案資料全文) をご覧ください。統計・各国制度の数値は提案時点のものです。
Open Issues
残された論点
制度ができたことはゴールではなく、運用のスタートです。デジタルノマド官民推進協議会の事務局として現場の声に接するなかで、私たちが引き続き論点だと考えているのは次の4点です。
Council
デジタルノマド官民推進協議会
制度ができても、受け入れる地域と事業者の側が整っていなければ、デジタルノマドは日本を選びません。そこでRULEMAKERS DAOは、自治体・関連団体・業界関係者が連携してデジタルノマド誘致を推進する「デジタルノマド官民推進協議会」の設立を主導しました。2024年10月16日、東京・有楽町のTokyo Innovation Baseで開催した「デジタルノマドシンポジウム」(後援:観光庁・JNTOほか)にて設立を宣言しています。
当DAOは協議会の事務局を務め、副会長には当DAOの牧野裕貴が就任しています。制度をつくって終わりにせず、運用と受け入れ環境づくりまで伴走する——これが地域SubDAOの活動方針です。
FAQ
よくある質問
Q.日本の「デジタルノマドビザ」とは何ですか?
正式には在留資格「特定活動」の一類型で、告示53号(本人)および告示54号(帯同する配偶者・子)として新設されたものです。「デジタルノマドビザ」という名称の在留資格があるわけではありません。
Q.いつから利用できるようになりましたか?
2024年4月1日に運用が開始されました(告示の公布は3月29日付)。2023年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」に関連方針が盛り込まれたことが制度化の起点になっています。
Q.日本で何ができて、何ができないのですか?
できるのは、外国の団体との契約に基づき情報通信技術を用いてその団体の外国にある事業所の業務に従事すること、および情報通信技術を用いて外国にいる者に役務を提供・物品を販売することです。日本の公私の機関との雇用契約等に基づく就労はできず、資格外活動許可も原則として認められません。
Q.年収の要件はありますか?
申請人個人の年収が1,000万円以上であることが求められます。本国の納税証明書や所得証明等での立証が必要です。
Q.保険への加入は必要ですか?
必要です。死亡・負傷・疾病に係る民間の医療保険に加入している必要があり、傷害疾病の治療費用補償額は1,000万円以上、かつ滞在予定期間に対応していることが求められます。
Q.どの国の人でも申請できますか?
いいえ。出入国在留管理庁が定める対象国・地域一覧に掲げる国籍等を有する必要があります(査証免除措置と租税条約等の有無が基準とされています)。最新の対象国は公式ページでご確認ください。
Q.滞在できる期間はどのくらいですか?延長できますか?
6か月で、更新はできません。ただし出国後6か月以降であれば、再度この在留資格で日本に滞在することが可能です。
Q.家族を連れて行けますか?
扶養を受ける配偶者・子であれば、告示54号により帯同できます。在留期間は本人と同じく6か月以内で、更新はできません。
Q.在留カードは交付されますか?
交付されません。このため銀行口座の開設や携帯電話の契約など、生活面での実務に制約が生じうる点が当事者から指摘されています。
Q.RULEMAKERS DAOは申請の相談に乗ってもらえますか?
RULEMAKERS DAOは制度づくり(ルールメイキング)に取り組む市民コミュニティであり、在留資格の申請取次・代行は行っていません。申請手続については出入国在留管理庁の公式情報および在外公館の案内をご確認のうえ、行政書士・弁護士等の専門家にご相談ください。制度そのものへの意見や、受け入れ側としての取り組みについては、Discordでの議論に参加いただけます。
あわせて読む
デジタルノマドビザ創設のご提案(2023年6月・提案資料全文)/ デジタルノマドビザ Q&A(そもそもデジタルノマドビザとは?をやさしく解説)/ 地域 SubDAO / デジタルノマド官民推進協議会を設立/シンポジウム開催 / デジタルノマドビザとは? ― 日本での新設と背景
主な出典
- 出入国在留管理庁「在留資格「特定活動」(デジタルノマド(国際的なリモートワーク等を目的として本邦に滞在する者)及びその配偶者・子)」
- 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」(2023年6月16日閣議決定)
- 観光庁「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」(2023年5月30日)
- RULEMAKERS DAO 地域SubDAO「デジタルノマドビザ創設のご提案」(2023年6月8日)
