Skip to content

全員で決めない組織は、なぜ前に進むのか:「沈黙は承認」を監事が検算する

連載「ルールが変わる現場を、会計士が検算する」第3回 全員で決めない組織は、なぜ前に進むのか

【この記事の要約】①2025年3月のRMD総会では、4つの議案に対してメンバーからの質問は1件だけで、すべての議案が全会一致で可決されました。②異議が出なければ賛成とみなす「沈黙は承認」という決め方は、決めることの数を減らし、組織を前に進めるために使われます。③監査には、相手が黙っていれば残高に違いはないとみなす「消極的確認」という手続があり、使ってよい条件が4つ決まっています。その条件でRMDの決め方を検算すると、沈黙を承認とみなしてよかった場面と、そうでなかった場面が分かれました。

質問は1件だけだった

2025年3月25日、RMDはオンラインで年次総会を開きました。議案は、評議会規程、報酬規程、経費精算基準、そしてメンバーの活動に応じて付ける独自のポイントの一覧表の4つです。

議案ごとに質問用のスレッドを立て、投票は3月30日まで受け付けました。メンバーから寄せられた質問は、経費精算基準の「謝金」という言葉についての1件だけです。この言葉は削られました。ほかの修正は、どれも議案を出した代表理事の塩澤好貴が自分で申し出たものでした。4月1日に出た結果は、すべての議案が全会一致で可決、というものです。

RMDは、市民、起業家、専門家、政治家が一緒にルールづくりに取り組む一般社団法人です。名前のDAOは、特定の経営者の指示ではなく、メンバーが自分から手を挙げて活動を進める組織の形を指しています。書き手の私は、RMDの監事を務める公認会計士です。監事は法人の業務と会計をチェックする役員で、理事会に出席して意見を述べることができます。

監事として、この総会の数字をどう読むべきか考えました。メンバーが内容に納得していたのかもしれません。関心がなかっただけかもしれません。質問1件という数字だけでは、どちらとも言えません。この回では、黙っている人を賛成とみなしてよいのはどんなときかを、監査の物差しで確かめます。

異議が出なければ、賛成とみなす

ふつうの会社では、社長や役員が決め、社員はそれに従います。DAOは、特定の誰かの指示で動くことを避けるので、何でもメンバー全員で決めようとしがちです。ところが参加者が増えるほど、全員で決めるための会議と調整も増えていきます。

そこで使われるのが、異議が出なければ賛成とみなす決め方です。オープンソースの世界では「lazy consensus」と呼ばれています。Apacheソフトウェア財団の用語集の説明は、決められた期間内に反応がなければ全体の同意があったとみなす決め方、というものです。例として、3日以内に誰も反対しなければこの変更を取り込む、という使い方が挙がっています。日本語にすれば「沈黙は承認」でしょう。

RMDにも、全員で決めることを絞る考え方があります。2025年8月の総会の案内で、塩澤は、総会にかけるのは定款と規程で決めなければならない最低限の議題に絞っていると説明し、話したいことがあれば議題を出すようメンバーに呼びかけています。

問題は、黙っている人を本当に賛成とみなしてよいのか、という点です。

監査人は、沈黙をどう扱うか

参考になるのは、監査の手続です。

監査人は、会社の売掛金や預金の残高が正しいかを確かめるために、取引先や銀行に「確認状」を送ります。確認状には2つの種類があります。回答を必ず返してもらう積極的確認と、記載された残高に違いがあるときだけ回答してもらう消極的確認です。消極的確認では、相手が何も返してこなければ、残高に違いはないとみなします。監査における「沈黙は承認」です。

日本公認会計士協会の監査基準報告書505「確認」は、消極的確認から得られる証拠は積極的確認より証明力が弱いと書いています。そのうえで第14項で、消極的確認だけに頼ってよい条件を4つ挙げています。私の言葉で言い直すと、次のとおりです。

  1. 間違いが起きるリスクが低く、ふだんの管理がきちんと機能していると確かめられていること
  2. 対象が、少額で似たような項目の集まりであること
  3. 違いが見つかる割合が、とても低いと見込まれること
  4. 相手が確認状を無視しそうな事情に、監査人が心当たりがないこと

4つがそろわなければ、監査人は回答を必ず返してもらう方法に切り替えることになります。

組織の決め方に置き換えると、1つ目は、決め方のルールが整っていて、ふだんの運営が回っていること。2つ目は、小さく似たような決定であること。3つ目は、反対がほとんど出ないと見込めること。4つ目は、確認状がきちんと届いて読まれる前提の条件なので、組織でいえば、提案が全員に届き、目を通される状況にあることにあたります。4つがそろう場面でなら、沈黙を承認とみなして前に進んでかまわない、というのが私の考えです。ここからは、RMDの決め方を4条件に照らしていきます。

小さな決定は、投票しなくても通った

2023年8月、あるメンバーが、参加するときに選ぶ関心分野の札(ロール)と、実際の分科会の構成が合っていないと指摘し、1人1票の投票で決めることもあわせて提案しました。運営はこの指摘を受け入れ、投票はせずにロールを直しています。

ロールの選択肢を直すのは、小さな決定です(2つ目の条件)。直したことに反対する声も、その後は出ていません(3つ目)。提案はメンバーの誰もが読める場所に書かれていました(4つ目)。4条件に照らせば、投票を省いたのは妥当でした。

一方で、こうした指摘を言い出すには勇気が要ります。沈黙を承認とみなす組織では、黙っている人の中に、言い出せなかった人が混じります。監査人が確認状に返信用の封筒を同封するのも、相手が回答しやすいようにするためです。異議の出しやすさも、決め方の設計に含まれます。

大きな決定は、票を集めた

2024年4月、メンバーシップの証として発行するNFT(ブロックチェーン上で発行するデジタルの会員証)を誰に付与するかという基準を決めるとき、RMDは投票を行いました。稼働時間・成果物・メンバー同士の評価を合算する案と、メンバー同士の評価だけで決める案などが並び、1回目の投票ではどの案も過半数に届きません。上位2案で決選投票になりました。

誰がメンバーになれるかは、組織の形を左右する大きな決定で(2つ目の条件を満たさない)、意見も実際に割れていました(3つ目を満たさない)。こういう場面で沈黙に頼らず票を集めたのは、監査でいえば積極的確認に切り替えた判断にあたります。

冒頭の2025年3月の総会も、同じ見方ができます。規程や報酬の決まりは、小さな決定ではありません。だからRMDは、異議を待つだけでなく、投票で一人ひとりの意思を集めました。ここまでは、4条件に照らして筋の通った運営です。ただ、結果の知らせには、議決権を持つ人の数も、投票した人の数も書かれていませんでした。質問が1件で全会一致という結果が、納得の表れなのか、関心の薄さの表れなのかは、何人が投票したかが分からないと判断できません。監事としては、次の総会から議決権を持つ人の数と投票した人の数を記録に残すよう、提案するつもりです。

期限を示さずに決めた件では、あとから異議が出た

2024年4月、ある分野の提言の窓口を外部の団体に一本化することが、メンバーに知らされました。2週間ほどたって、その分野の提言にかかわっていたメンバーから、決めた経緯を問う声が上がります。

決定はメンバー全員が見られる場所で知らされたので、届いてはいました。ただ、知らされたのは決まったあとの結果で、期限を示して異議を募る手順は踏まれていませんでした。窓口の一本化は、RMDが何を自分たちの活動とするかに関わる決定で、小さな決定ではありません(2つ目の条件を満たさない)。かかわっていたメンバーがいた以上、反対が出ないと見込める状況でもありませんでした(3つ目を満たさない)。

沈黙を承認とみなすなら、まず「この提案に、いつまでに異議がなければ決まる」と示す必要があります。結果だけを知らせて、あとから出た異議を退けるのは、沈黙による承認とは呼べません。

返事がないことの意味は、一つではない

2026年、RMDが運営する起業家向けプログラム「OPEN BLUE」の選考で、運営はコミットメンバーと呼ぶ中核の会員に採点への協力を頼みました。記入はゼロでした。運営はこれを、採点がなくても最終選考に影響しないと整理しています。誰も反対しなかったから運営の案で決まり、とは扱っていません。

さかのぼると、2023年3月には、メンバーの貢献にポイントを付ける「クエスト」という仕組みの中で、議事録の作成やヒアリングの書式づくりなど8件の依頼に、応募がゼロでした。誰も手を挙げない依頼は、賛成でも反対でもなく、誰も引き受けないという意味です。

返事がないことの意味は、場面によって違います。同意のこともあれば、関心がないことも、引き受けたくないこともあります。採点の記入ゼロを同意とみなさなかった運営の整理は、監査でいえば、回答のない確認状を同意とみなさず、別の手続で確かめるのと同じ考え方です。

決め方を3段に分けた

4条件の1つ目、決め方のルールが整っているかどうかについても、振り返っておきます。

2024年9月、運営のボランティアの中で、決める権限を持つ人がはっきりしないまま議論が行き来しました。現場からは、誰かにゴーサインを出してほしいという声が上がります。これに対して塩澤は、特定の誰かがOKと言ったから実行するという決め方はとらない、と答えました。そのうえで決め方を3段に分けています。重要な事項はメンバーの投票で決める。細かい事項は関係者で話し合って決め、結果を共有する。リスクのある事項は理事会で決める。

区分ができる前は、1つ目の条件が満たされていなかったことになります。3段に分けたことで、細かい事項は話し合って共有すれば済む、という前提が整いました。どの決定を積極的確認にし、どの決定を消極的確認で済ませるかを、前もって分けておく作業です。ただ、ある事項がどの区分に当たるかで迷ったときの決め方までは、まだはっきりしていません。

監事として提案したい3つのこと

RMDの決め方を4条件に照らして、監事として提案したいことを3つにまとめます。

1つ目は、沈黙で決めることと、票を集めて決めることを、あらかじめ規程に書いておくことです。2024年9月の3段の区分を規程に書き、どの区分に当たるか迷ったときに誰が判断するかも決めておけば、決める側も決められる側も迷いません。

2つ目は、沈黙で決めるときに、期限と届け先を記録に残すことです。いつまでに異議がなければ決まるのか。その提案を誰が見られる場所に置いたのか。この2つが記録にあれば、あとから決めた経緯を聞かれても答えられます。投票で決めるときは、議決権を持つ人の数と投票した人の数も残します。

3つ目は、異議の出し方を軽くすることです。定型の書式を用意する、名前を出さずに懸念を伝えられる窓口を置く、といった方法があります。異議を出す仕組みが実際に働いた例もあります。2025年2月、RMDの起業家向けプログラム「RIFT」の選考で、運営は応募の採点にAIを使いました。採点の中に極端に低いものが混じっていたため、運営内ですぐに投票を行い、AIの採点結果を使わないと決めています。そのうえで、16件すべての応募を人が読んで採択を決めました。おかしいと思ったときに止められる仕組みがあれば、ふだんは沈黙を承認とみなしても安心です。

冒頭の総会に戻ると、質問1件という数字だけでは、納得か無関心かは分かりません。分かるようにするには、黙っている人が本当に同意していると判断できる記録と手続を、前もって用意しておく必要があります。

次回は、ルールが変わると事業の数字のどこが動くのかを、OPEN BLUEの設計から見ていきます。

よくある質問

Q. 「沈黙は承認」とはどういう決め方ですか?

A. 提案に対して決められた期間内に異議が出なければ、全体が同意したとみなす決め方です。オープンソースの世界では「lazy consensus」と呼ばれます。決める回数を減らして組織を前に進められる反面、提案が全員に届いていない場合や、異議を出しにくい雰囲気がある場合には、本当の同意とは言えなくなります。

Q. 監査の消極的確認とは何ですか?

A. 監査人が取引先などに残高の確認を依頼し、記載に違いがあるときだけ回答してもらう方法です。回答がなければ違いはないとみなします。日本公認会計士協会の監査基準報告書505では、回答を必ず求める積極的確認より証明力が弱いとされ、単独で使ってよい条件が4つ定められています。

Q. DAOでは全部を投票で決めるのですか?

A. 全部を投票で決めるとは限りません。RMDの場合、総会での投票は定款や規程で必要な議題に絞り、日々の細かい事項は関係者の話し合いで決めて共有しています。重要な事項は投票、細かい事項は合議、リスクのある事項は理事会という分け方をとっています。

出典・参考

筆者プロフィール

星野宇潮(公認会計士・税理士/RULEMAKERS DAO 監事)

星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士

一般社団法人RULEMAKERS DAOの監事、株式会社インベーダーズ創業者。合同会社型DAOの立法に関与し、本サイトで会計・税務連載を執筆。自律型AIエージェントを現実の産業に社会実装する公認会計士・税理士として、監査支援AI「右筆(Yuhitsu)」の開発・実証にも取り組む。

連載|ルールが変わる現場を、会計士が検算する

公認会計士・税理士 星野宇潮による全4回+まとめ

RULEMAKERS DAOの活動と公開資料を突き合わせ、ルールが実際にどう動いたのかを会計士の目で確かめる連載です。

  1. 第1回 デジタルノマドビザ、骨太の方針に載るまでの94日:滞在6か月を決めたのは税だった
  2. 第2回 提言の直前に、ルールが変わった:起業家がルールに挑むときにつまずく場所
  3. 第3回 全員で決めない組織は、なぜ前に進むのか:「沈黙は承認」を監事が検算する(本稿)
  4. 第4回 ルールを変えるのは、割に合うのか:ルールメイキングを投資として考える
  5. まとめ ルールを変えたい人のための手引き:連載「ルールが変わる現場を、会計士が検算する」まとめ

Comments

Previous
Next

RULEMAKERS DAOをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む