
2026.06.26
会計士・税理士でありながら、DAO・メタバース・生成AIといった次世代領域の社会実装に挑む異色のキャリア。RULEMAKERS DAOで監事を務める星野宇潮(ほしの・うしお)に、ルールメイキングへの想いと、一貫して掲げる「未来の居場所づくり」について聞いた。
立教在学中の会計士合格から、IPO支援、そしてDAOへ
― まず、これまでのご経歴を教えてください。
もともと数字を通じて事業や組織の本質を捉えることに惹かれ、立教大学に在学していたころに公認会計士試験に合格しました。卒業後は有限責任監査法人トーマツに入所し、さまざまな企業の会計監査に携わるなかで、会社がどのように成り立ち、どこで信頼が生まれるのかを現場で学びました。その後、税理士の資格も取得し、より経営の近くで伴走したいという思いから、IPO(株式公開)支援に特化したコンサルティングファームを創業しました。中小・中堅企業が成長し、上場という大きな節目を越えていく過程に数多く携わるなかで、「制度と組織がどう噛み合うか」が事業の成否を大きく左右することを、肌で感じるようになりました。
― 会計の専門家から、なぜDAOやルールメイキングの世界へ?
会計監査やIPO支援を通じて、会社という組織と資本市場に正面から向き合ってきました。そのなかで、次第に「組織のかたち」そのものに関心が向くようになったんです。株式会社という仕組みは、資本を集め、責任を明確にし、大きな事業を動かすうえできわめて強力です。ただ、それがすべての答えではない、とも感じていました。人が集まり、価値を生み、意思決定をしていく形は、本来もっと多様であっていいはずです。そうした問題意識のなかで、次世代の組織のかたちとしてDAO(分散型自律組織)に出会いました。中央に強い管理者を置かず、参加者が自律的に協働しながら一つの目的に向かう——そこに、これからの社会に必要な新しい可能性があると直感したんです。会計の専門家だからこそ、その「新しい組織」をどう成り立たせ、どう信頼を担保するかを考えたいと思いました。

合同会社型DAOの「立法」に携わる
― 実際に制度づくりにも関わられたそうですね。
はい。当時、DAOはまだ法律上の位置づけがはっきり定まっていない領域でした。新しい組織のかたちに可能性を感じても、それを支える制度がなければ、現実の社会では動かせません。そこで、仲間とともにロビーイング団体を立ち上げ、合同会社型DAOに関する立法にも携わりました。行政や立法に関わる方々と対話を重ね、制度の論点を一つずつ整理していく。技術の側の理屈だけでも、行政の側の論理だけでも前に進まない——その間に立って言葉を翻訳し、合意をつくっていく作業でした。新しい技術や組織を社会に実装するには、技術そのものだけでなく、それを支える「ルール」を一緒につくっていく必要がある。自分自身がルールメイキングの当事者になったこの経験が、いまの活動すべての原点になっています。

RULEMAKERS DAOでの役割
― RULEMAKERS DAOではどんな立場で関わっていますか。
一般社団法人RULEMAKERS DAOでは、監事を務めています。会計・ガバナンスの専門家として、団体運営の健全性を支えるのが基本的な役割です。お金の流れや意思決定のプロセスが透明であること——それは、立場の異なる人たちが安心して集まるための土台だと考えています。ただ、役割はそこにとどまりません。DAOという新しい組織形態そのものの会計や税制のあり方も検討しています。既存の制度は株式会社を前提に設計されていますが、分散型の組織にはそれに合った会計・税務の考え方が要る。会計士・税理士として、実務の側からその制度設計を考えていきたいんです。さらに、自律型AIエージェントを活用したコミュニティづくりにも取り組んでいます。市民・起業家・専門家・政治家が立場を越えて連携するこの場で、私自身も一人の当事者として「ルールを変えて、社会をアップデートする」挑戦に参加しています。
「未来の居場所づくり」
― インベーダーズでの事業についても聞かせてください。
株式会社インベーダーズを創業し、企業・自治体・教育機関のオンラインコミュニティづくりを、構想の段階から日々の運用まで一気通貫で伴走支援しています。ただ場をつくるだけでなく、そこに人が集まり続け、関係が育っていく仕組みまで含めて設計するのが私たちの仕事です。在京キー局や大手鉄道会社、大学などと連携して、延べ数十万人規模のバーチャルイベントも企画・運営してきました。リアルのイベントとは異なる、オンラインならではの「集まり方」「熱量の生まれ方」を試行錯誤してきた蓄積があります。これらすべてに一貫して掲げているのが「未来の居場所づくり」です。バーチャルとリアルをつなぎ、人と組織が安心して集える場と、その場を持続させる基盤となる新しい経済圏をつくること——それが私のテーマです。

会計×AI ― 自律型AIエージェントの社会実装
― 最近は自律型AIエージェントの開発にも取り組まれています。
会計・監査・業務フローは、最も規制が厳しく、自動化が難しいとされてきた領域です。正確さと説明責任が強く求められ、判断の根拠を一つひとつ示せなければならない。だからこそ、ここに自律型AIエージェントを自分の手で開発し、実装することに意味があると考えています。大切にしているのは、デモやプロトタイプで終わらせないことです。実務で本当に動き、責任を持って使えるAIを設計し、運用まで踏み込む。「堅い」とされる会計の領域でそれが成立すれば、その手法は他の多くの産業にも応用できるはずです。会計という最も難しい現場での実装は、AIを社会のあらゆる場面へ実装していくうえでの試金石になる——そう信じて取り組んでいます。
これから挑みたいこと
― RULEMAKERS DAOで実現したいことは。
テクノロジーは驚くほど速いスピードで進化しますが、社会のルールはそう簡単には追いつけません。その「間(はざま)」にこそ、誤解や摩擦、そして大きな機会が生まれます。その隙間を埋めていくのがルールメイキングだと思っています。DAO、メタバース、生成AI——新しい技術はしばしば「あやしいもの」「よくわからないもの」として扱われがちです。それを、誰もが安心して関われる「みんなの居場所」に変えていきたい。そのために、制度とコミュニティの両面から、当事者として関わり続けます。ルールは、誰かに決められて従うものではなく、自分たちの手で変えられるもの。一人でも多くの人がそう実感し、安心して挑戦できる場所を、これからも増やしていきます。
星野 宇潮(ほしの・うしお)

公認会計士・税理士/株式会社インベーダーズ 創業者/一般社団法人RULEMAKERS DAO 監事。立教大学在学中に公認会計士試験に合格し、有限責任監査法人トーマツへ。IPO支援に特化したメタワークス会計事務所・コンサルティングを創業。DAOに着目して株式会社インベーダーズを創業し、「未来の居場所づくり」をテーマにコミュニティ伴走支援・バーチャルイベント・自律型AIエージェント開発に取り組む。
▶ プロフィール詳細:RULEMAKERS DAO メンバー紹介ページ
▶ 他媒体のプロフィール:株式会社インベーダーズ / メタワークス会計事務所・コンサルティング / ソーシャルノバ
星野宇潮による解説連載:合同会社型DAOの会計・税務
星野は、2024年4月の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、その会計・税務の実務を公認会計士・税理士の視点から全15回+番外編の連載で解説しています。組成を検討する起業家・実務家の方はあわせてご覧ください。
▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)

