連載第7回(暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列)では法人側の期末時価評価の緩和を追いました。あれから制度は「第二幕」に入っています。今度の主役は個人の所得課税——長年の懸案だった「雑所得・総合課税(最高税率約55%)」の見直しが、ついに具体的な条文とスケジュールを持ち始めました。本稿は増補として、2024年末から2026年春までの動きを時系列で整理します。
時系列——「検討」から「大綱」へ
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年12月 | 令和7年度税制改正大綱の検討事項に、暗号資産を「国民の資産形成に資する金融商品」として位置づける場合の課税見直しが明記される |
| 2025年6月 | 金融庁が暗号資産制度に関するディスカッション・ペーパーを公表、規制の金商法移管の議論が本格化 |
| 2025年8月 | 金融庁が令和8年度税制改正要望に暗号資産取引への申告分離課税の導入を盛り込む |
| 2025年12月 | 令和8年度税制改正大綱(12月19日与党決定・12月26日閣議決定)に「特定暗号資産」への20%申告分離課税と3年間の損失繰越控除が盛り込まれる |
| 2026年3月 | 「所得税法等の一部を改正する法律」が成立・公布(3月31日)。特定暗号資産の20%申告分離課税を規定(適用は改正金商法の施行が前提) |
| 2026年4月 | 金商法・資金決済法改正案が閣議決定・国会提出(4月10日)。暗号資産規制を資金決済法から金商法へ移管、インサイダー取引規制を創設 |
| 2026年6月 | 金商法・資金決済法改正案が衆議院を通過(6月11日)。参議院で審議中 |
何が決まったのか——新制度のポイント
1. 「特定暗号資産」に20%の申告分離課税
新制度では、一定の要件を満たす「特定暗号資産」の取引から生じた所得に、上場株式等と同様の20%(所得税15%+住民税5%。復興特別所得税を含めると20.315%)の申告分離課税が適用されます。現行の「雑所得・総合課税で最高約55%」からの大転換です。この枠組みは大綱にとどまらず、2026年3月31日成立・公布の「所得税法等の一部を改正する法律」にすでに盛り込まれています(適用開始は改正金商法の施行が前提。後述)。
重要なのは「特定」の限定が付いていることです。対象は登録業者を通じた取引等の要件を満たすものに限られる建付けで、すべての暗号資産・すべての取引が一律20%になるわけではありません。DeFiでの取引や海外業者経由の取引がどう扱われるかは、今後の政省令・実務の詰めを注視する必要があります。
2. 損失の3年繰越と損益通算
分離課税の対象となる取引には、損失の翌年以降3年間の繰越控除と対象取引間の損益通算が認められる方向です。「爆益の年に55%課税、爆損の年は救済なし」という従来の非対称が、ようやく是正されます。
3. 適用開始は「金商法改正の施行」に連動
新税制の適用開始は、改正金商法の施行日の翌年1月1日以降とされています。金商法改正が2026年に成立し所要の準備期間(1年程度と見込まれます)を経て施行された場合、2028年1月からの適用が有力という見方が多いですが、国会審議と施行時期次第で動きます。※本稿執筆時点の情報です。最新の法令・施行日を必ずご確認ください。
なぜ金商法とセットなのか
「株並みの税率にするなら、株並みの投資家保護を」——これが制度設計の背骨です。2026年4月に国会提出され、6月11日に衆議院を通過した金商法・資金決済法改正案(本稿更新時点で参議院審議中)は、暗号資産の規制を資金決済法から金商法へ移管し、発行者・取引業者への情報開示規制、業規制の強化、そしてインサイダー取引規制の創設を盛り込んでいます。税は金融商品としての規制インフラとワンセット。連載第1回から見てきた「二項有価証券としての社員権トークン」の世界と、「金融商品としての暗号資産」の世界が、制度上つながっていくイメージです。
DAO実務への影響——3つの目線
- 投資家・社員の目線:社員権トークンの分配・譲渡の税務(第9回)とは別枠で、保有する暗号資産の売買益の税負担が将来大きく変わりうる。売却タイミングの計画に「制度の施行日」という変数が加わった。
- DAO(法人)の目線:法人課税には今回の分離課税は直接影響しないが、トークンの流動性・市場参加者の裾野が広がれば、トレジャリー運営や資金調達の環境が変わる。インサイダー規制の創設は、DAO運営者が知る未公表情報の管理体制という新しい宿題を意味する。
- 組成を検討する起業家の目線:「税制が整うまで待つ」は一つの選択だが、特定暗号資産の範囲・トークンの該当性など不確定要素も多い。制度の確定を待つ部分と、いま設計で吸収する部分を切り分けるのが現実解。
実務チェックポイント(第15回)
- 20%分離課税の対象は「特定暗号資産」に限定。自分の保有資産・取引形態が対象に入るかは政省令を待って判定する。
- 適用開始は金商法改正の施行に連動(施行翌年の1月1日以降)。「いつから」を断定せず、施行日をウォッチする。
- 損失の3年繰越が入る方向。損出しのタイミング戦略は新制度の適用開始日を踏まえて再設計する。
- インサイダー取引規制の創設により、未公表情報の管理がDAO運営の新たな論点になる。
- 本稿の内容は執筆時点の大綱・法案ベース。成立した条文で必ず確認し、判断は専門家に相談を。
まとめ
令和5・6年度改正が「法人を日本に引き留める」ための手当てだったとすれば、今回の第二幕は「個人投資家の市場を株式並みに整える」ための地殻変動です。DAOにとっては、トークンエコノミーの前提条件が変わる話でもあります。制度はまだ動いています——本連載も動きに合わせて増補を続けます。
出典・参考
- 財務省:令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)
- 金融庁:令和8(2026)年度税制改正について——税制改正大綱における金融庁関係の主要項目
- 金融庁:令和8(2026)年度税制改正要望について(2025年8月)
- 金融庁:金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料(2026年4月)
- 長島・大野・常松法律事務所:暗号資産に係る規制・税制の改正の内容(1)——金商法及び資金決済法改正法律案の概要
- 大和総研:暗号資産取引に20%の申告分離課税導入へ(2026年2月)
筆者プロフィール
星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士
一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。
連載|合同会社型DAOの会計・税務
公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編
2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。
▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)
- 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
- 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
- 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
- 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
- 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
- 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
- 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
- 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
- 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
- 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
- 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
- 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
- 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
- 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
- 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ(本稿)
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