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合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)

合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)

前回(合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理)では、出資や純資産、社員権トークンの発行といった「資本側」の会計を整理しました。今回はその裏側、つまりDAOが手元に持つ、あるいは自ら発行する暗号資産(トークン)の会計処理を取り上げます。

多くの合同会社型DAOは、調達した資金の一部を暗号資産で保有したり、ユーティリティトークンを自ら発行したりします。ところが、ここには「決算でいくらに評価するのか」「自己発行分はどう扱うのか」という、組成段階では見落とされがちな論点が潜んでいます。本稿では、暗号資産会計の基礎となる企業会計基準委員会(ASBJ)の実務対応報告第38号を起点に、実務で迷いやすいポイントを順に整理します。

1. 出発点:DAO固有の会計基準は存在しない

最初に確認しておきたいのは、「DAOの会計基準」というものは存在しないということです。合同会社型DAOといっても、会社法上は普通の合同会社(持分会社)であり、会計処理の土台は通常の合同会社とまったく同じです。特別な世界に入るわけではありません。

では何が「DAOらしい」論点なのかというと、ほぼ一点に集約されます。暗号資産という資産を、保有し、あるいは発行することによって生じる会計処理です。そして、この暗号資産の会計を考えるときの基礎になるのが、ASBJが2018年(平成30年)3月に公表した実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」です。タイトルにある通り、これは確定した「会計基準」ではなく、当面の取扱いを定めた実務上のルールという位置づけですが、現時点で暗号資産の会計を語るうえで避けて通れない基礎文書です。

2. 実務対応報告第38号の要点

第38号が定めているのは、大きく分けて「期末にいくらで評価するか」「売却損益をいつ認識するか」という二点です。実務上、特に重要なのは前者の期末評価で、ここが「活発な市場が存在するかどうか」で二つに分かれるのが最大のポイントです。

活発な市場とは

第38号でいう「活発な市場が存在する」とは、ざっくり言えば、暗号資産交換業者や取引所において、十分な数量と頻度で取引が行われ、継続的に価格情報が提供されている状態を指します。主要な取引所に常時上場され、いつでも市場価格が取得できるようなメジャーなトークンは、これに該当すると考えられます。一方、取引がほとんどなく価格が継続的に得られないようなトークンは、活発な市場が存在しないものとして扱われます。

活発な市場が存在する場合の期末評価

活発な市場が存在する暗号資産は、期末の市場価格で評価(時価評価)し、帳簿価額との差額は当期の損益として処理します。含み益も含み損も、そのまま損益計算書(P/L)に反映される、というのが基本形です。後述するように、ここが税務との「ズレ」を生む震源地になります。

活発な市場が存在しない場合の期末評価

活発な市場が存在しない暗号資産は、取得原価で計上したままにします。ただし、処分見込価額が取得原価を下回る場合には、その処分見込価額を貸借対照表価額とし、差額を当期の損失として計上します。値下がりしたときだけ損失を出す、いわゆる低価法的な考え方です。しかも、いったん切り下げた帳簿価額は、その後値を戻しても元には戻しません(切放し法)。含み益は計上せず、含み損だけを取り込む非対称な処理になる点に注意が必要です。

売却損益の認識時点

暗号資産の売却損益は、売買の合意が成立した時点で認識します。通常の有価証券と同様、約定ベースで損益を捉えるイメージです。

区分 期末評価 評価差額の処理
活発な市場が存在する 市場価格(時価) 差額(益・損とも)を当期損益へ
活発な市場が存在しない 取得原価。ただし処分見込価額が下回れば切下げ 切下げ額(損のみ)を当期損失へ。戻入れなし

仕訳イメージ

イメージをつかむため、活発な市場が存在する暗号資産を期末に評価する場面を示します(金額は説明用)。期中100で取得した暗号資産が、期末に130になっていたとします。

  • (借)暗号資産 30 /(貸)暗号資産評価益 30 …含み益30をP/Lに計上

逆に期末に70まで下落していれば、

  • (借)暗号資産評価損 30 /(貸)暗号資産 30 …含み損30をP/Lに計上

活発な市場が存在しないトークンであれば、上昇局面では仕訳を起こさず取得原価100のまま据え置き、70まで下がったときにだけ評価損30を計上する、という非対称な動きになります。

3. 自己発行トークンの会計上の扱い——ここが未確定

合同会社型DAOで最も悩ましいのが、自分(自社)で発行したトークンの扱いです。結論から言うと、実務対応報告第38号は、自己(関係会社を含む)が発行した暗号資産を、そもそも適用範囲から除外しています。つまり、第38号を読んでも「自己発行トークンの会計処理はこう」とは書かれていないのです。

ここは丁寧に切り分ける必要があります。

(1) 第三者が発行したトークンを保有している場合

取引所で買ってきたトークンや、他者が発行したトークンを保有しているケースです。これは第38号の対象であり、前章の「活発な市場の有無」による期末評価がそのまま当てはまります。

(2) 自分が発行し、自己に割り当てたトークンを保有している場合

DAOがトークンを発行し、その一部を自らの手元(トレジャリー等)に保有しているケースです。この「発行者が発行時に自己に割り当てた暗号資産」の会計上の取扱いは、現時点で明確な基準が定まっていません。ASBJでも、この論点が審議のテーマとして取り上げられている段階です。

実務上は、その自己割当トークンを資産として計上してよいのか(取得原価をどう測るのか)、それとも単なる発行余力にすぎず資産性を認めにくいのか、といった根本的な論点が残っています。安易に「時価×保有数量」で巨額の資産を計上すると、実体を伴わない含み益を計上してしまうおそれがあり、慎重な判断が求められます。

なお、社員権トークンそのものの発行(資金調達)に伴う処理は、暗号資産の会計ではなく純資産側の論点であり、前回記事で扱いました。「社員権トークン(資本の話)」と「保有・発行する暗号資産(資産の話)」を混同しないことが、整理の第一歩です。トークンといっても、その性質が暗号資産なのか、出資持分としての社員権トークンなのかで、立つべき会計のフレームが変わります。

4. 会計と税務の評価のズレ

実務で最も事故が起きやすいのが、会計上の評価と税務上の評価が一致しないという点です。会計士・税理士として、ここは強調しておきたいところです。

会計(第38号)では、活発な市場が存在する暗号資産は期末に時価評価し、含み損益をP/Lに計上します。一方で法人税法上の期末評価は、近年の税制改正で大きく動きました。流れを時系列で整理します。

  • 改正前:法人が保有する「活発な市場が存在する暗号資産」は、自己発行・第三者発行を問わず、期末に時価評価され、その含み損益が課税対象とされていました。まだ売っていない(実現していない)含み益にまで課税される構造は、Web3事業の大きな阻害要因と問題視されてきました。
  • 令和5年度税制改正:法人が継続して保有する自己発行の暗号資産が、期末時価評価課税の対象から除外されました。
  • 令和6年度税制改正:これに続き、第三者発行の暗号資産であっても、譲渡制限が付されているなど一定の要件を満たし継続的に保有するものは、期末時価評価の対象外とできることになりました。この令和6年度改正は2024年に成立し、2024年(令和6年)4月1日以後に終了する事業年度等に適用される流れです。

ここで生じるのが会計と税務のズレです。たとえば、活発な市場が存在し、かつ一定要件を満たして税務上は期末時価評価の対象外となる暗号資産を保有している場合、

  • 会計上:第38号に従い時価評価し、含み損益をP/Lに計上する
  • 税務上:期末時価評価の対象外であれば、その含み損益は課税所得に反映しない

という食い違いが出ます。この差は、申告調整(別表での加算・減算)や、必要に応じた税効果会計の検討によって埋めることになります。「会計でも税務でも同じように時価評価される」と思い込んで処理すると、申告で誤る典型的な落とし穴です。要件の判定(譲渡制限の有無、継続保有の実態など)は個別性が高く、最新の取扱いの確認が欠かせません。

5. 実務チェックポイント

組成・決算にあたって、最低限おさえておきたい確認項目を挙げます。

  • 保有するトークンは第三者発行か、自己発行か。まずこの切り分けから始める。
  • 第三者発行分について、活発な市場が存在するかを判定し、時価評価(差額は損益)か取得原価(切下げのみ)かを決める。
  • 活発な市場が存在しない場合、処分見込価額が取得原価を下回っていないかを期末に検討する。いったん切り下げたら戻入れしない点に注意。
  • 自己発行・自己割当トークンは、資産計上の可否・測定方法が未確定であることを前提に、慎重に方針を決め、根拠を文書化しておく。
  • 会計上の評価と税務上の評価(期末時価評価課税の対象か否か)を必ず突き合わせ、ズレがあれば申告調整を想定しておく。
  • 暗号資産は価格変動が大きいため、期末の評価方針を期初に決めて社内で共有しておく。決算直前に処理方法で迷う事態を避ける。

まとめ

合同会社型DAOの暗号資産会計は、特別な「DAO会計」があるわけではなく、実務対応報告第38号という既存の枠組みを正しく適用することが出発点です。鍵になるのは、(1)活発な市場の有無で期末評価が分かれること、(2)自己発行トークンは第38号の対象外で取扱いが未確定であること、(3)会計と税務の評価がズレうること、の三点です。

とりわけ税務との関係は、近年の改正で構造が変わったばかりで、運用が固まりきっていない領域です。次回は会計から税務へと話を移し、法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造で、合同会社型DAOの法人課税の基本構造を掘り下げます。暗号資産税制そのものの時系列は暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列で詳しく整理する予定です。

自己発行トークンの資産計上や、会計と税務のズレの処理は、個別事情によって判断が大きく変わります。組成や決算の前に、暗号資産・Web3に明るい会計専門家へ早めに相談することを強くおすすめします。

出典・参考

筆者プロフィール

星野宇潮(公認会計士・税理士/RULEMAKERS DAO 監事)

星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士

一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。

連載|合同会社型DAOの会計・税務

公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編

2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。

▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)

  1. 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
  2. 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
  3. 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
  4. 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
  5. 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)(本稿)
  6. 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
  7. 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
  8. 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
  9. 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
  10. 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
  11. 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
  12. 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
  13. 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
  14. 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
  15. 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ

番外編 DAOとAIエージェント——「自律する組織」の設計論

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