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組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる

組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる

これまでの連載で、合同会社型DAOの会計・税務を論点ごとに見てきました。法人課税の構造、暗号資産の期末評価、トークン発行時の課税、投資家・社員側の所得区分——いずれも「組成が終わったあと」に直面する話として説明してきましたが、実務家として何度も痛感するのは、これらの論点の大半は、組成の設計段階ですでに決まってしまっているということです。

定款にどう書くか、誰を業務執行社員にするか、トークンにどんな権利を載せるか。この三つの設計が、その後の会計処理と課税関係をほぼ規定します。設立登記が済んでから「この処理は無理です」と申し上げるのは、私としても心苦しい。だからこそ、設計段階で会計・税務の専門家が関与する意味は大きいのです。今回は、組成の実務を会計税務の観点から逆算して整理します。

合同会社型DAO「法」は存在しない——前提の再確認

本題に入る前に、連載を通じての大前提をもう一度確認します。「合同会社型DAO法」という単独の法律はありません。2024年4月1日に公布、同年4月22日に施行された金融商品取引法の定義府令の改正(正式には「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正)によって、トークン化された合同会社の社員権を、一定要件のもとで通常の合同会社の社員権と同等に扱えるようになった——これが「合同会社型DAOの解禁」の正体です(金融庁の公表資料)。

つまり組成にあたっては、(1) 会社法上の合同会社としての設計と、(2) 金商法上の社員権トークンとしての設計という二つの法域を同時に満たす必要があります。この二層構造が、定款・業務執行社員・トークン設計のすべてに影を落とします。詳しくは第2回・第3回をご参照ください。

定款設計のポイント——「会社法」と「DAOガバナンス」を一枚に収める

合同会社の定款は、株式会社と違い公証人の認証が不要です。これは組成コストの面では有利ですが、裏を返せば、第三者のチェックを経ずに登記まで進んでしまうということでもあります。設計の甘い定款がそのまま会社の骨格になってしまうリスクがある、と捉えるべきでしょう。

合同会社型DAOの定款には、通常の合同会社の必須記載事項(商号、事業目的、社員・出資、業務執行社員、公告方法など)に加えて、DAOとして機能させるための条項を盛り込みます。一般社団法人日本DAO協会が2024年4月にモデル定款を公表しており、実務ではこれが一つの出発点になっています。

定款に書き込むべきDAO固有の事項

  • 社員権トークンの発行に関する事項——社員権をトークンで表章すること、その発行・移転の方法
  • 意思決定の方法(DAO総会等)——トークンホルダーによる多数決をどう位置づけるか、決議事項の範囲
  • 利益分配に関する事項——分配の基準、出資額との関係(後述するCapの有無)
  • 業務執行社員の権限とその制約——どこまでを業務執行社員が決め、どこからをトークンホルダーの総意に委ねるか
  • 社員の加入・退社(トークン移転)の手続——移転制限と承諾の仕組み

会計税務の観点で特に注意したいのは利益分配条項です。第6回で説明したとおり、合同会社は法人課税であり、パススルーではありません。会社段階で法人税が課され、社員への分配段階で改めて課税される二段階構造になります。定款の分配条項を曖昧に書くと、その分配が利益配当なのか、出資の払戻しなのか、性質が不明確になり、源泉徴収や所得区分の判断(第9回参照)に直結する論点を抱え込むことになります。

業務執行社員と意思決定——「分散」と「責任主体」のバランス

DAOは「分散型自律組織」を理想としますが、現実の合同会社には業務執行社員という責任主体が必要です。実務では、トークンホルダーの総意(DAO総会の多数決)を尊重しつつ、業務執行社員が最終的な業務執行と対外的責任を担う、という設計が一般的です。

業務執行社員の役割は、しばしば「ストッパー」として説明されます。基本的にはトークンホルダーの投票を尊重するものの、DAOが違法行為や公序良俗に反する決定をしようとしたときに拒否権を発動する——そうした制約的な位置づけです。定款自治の範囲で、社員と認められないトークンホルダーで構成される総会に重要事項の決定を委ねることも、設計上は可能と整理されています。ただしこのあたりの運用は当時まだ固まっておらず、今後の実務の積み重ねが注目されるところです。

会計税務に響く三つの分岐点

設計上の選択 会計・税務への影響
業務執行社員に報酬を払うか 役員報酬類似の損金算入要件・源泉徴収の検討が必要になる
業務執行社員が法人か個人か 分配・報酬の課税関係、責任の所在、消費税の取扱いが変わる
意思決定をどこまでトークン総会に委ねるか 分配の機動性・経理処理のタイミング、ガバナンスの実在性に影響

とりわけ業務執行社員を法人にするか個人にするかは、組成後に変更しづらく、課税関係を大きく左右します。設計段階で税理士に相談すべき典型的な論点です。

トークンの権利設計が会計税務を決める

ここが今回の核心です。トークンに何の権利を載せるかで、そのトークンが暗号資産なのか社員権なのかが分かれ、会計処理も課税も変わります。

実務では、トークンを役割ごとに分けて設計する例が見られます。一例として、次のような三層構造が紹介されています。

  • 業務執行社員権トークン——出資額を超える分配を受けられる一方、他の社員への譲渡は制限される
  • 社員権トークン——分配は出資額を限度とし(いわゆるCap付き)、譲渡は比較的自由
  • ユーティリティ/ガバナンストークン——社員権とは明確に区別し、サービス利用権や投票権のみを付与する

この「Capを付けるか否か」が、会計税務の分水嶺になります。

Cap付き社員権トークンが選ばれる理由

分配額を出資額までに制限する「Cap付き」設計が好まれるのには、会計税務上の合理性があります。

設計 金商法・性質 会計・税務上の含意
Cap付き社員権トークン 社員権(みなし有価証券)として整理しやすい 純資産(社員資本)として処理。発行時に直ちに損益課税が生じにくい
Capなし・分配無制限トークン 暗号資産該当性の検討が重くなる場合がある 暗号資産と整理されると、発行・期末評価の課税論点(第5回・第8回)を抱えやすい

第8回で見たトークン発行時の課税、第5回で扱った暗号資産の期末時価評価——これらの厄介な論点を回避できるかどうかは、トークン設計の段階でほぼ決まります。「とりあえずトークンを発行してから処理を考える」という順序では手遅れになりかねません。

会計処理のイメージ

Cap付き社員権トークンを出資の対価として発行する場合、基本は通常の合同会社の出資受入れと同じ整理になります(仕訳はあくまでイメージです)。

  • 金銭出資を受け入れたとき:
    (借)現預金 / (貸)資本金(社員資本)
  • 暗号資産で出資を受け入れたとき:
    (借)暗号資産(時価) / (貸)資本金(社員資本)——受入時の時価評価と、保有後の期末評価(実務対応報告第38号、第三者発行で譲渡制限等の要件を満たすかの判定)が論点に
  • 利益を分配したとき:
    (借)利益剰余金等 / (貸)現預金——分配の性質に応じて源泉徴収・社員側の所得区分を検討

なお、DAO固有の会計基準は存在しません。トークン発行という資金調達の論点を除けば、基本は通常の合同会社と同じ会計です(第4回・第5回参照)。だからこそ、特殊なのは「トークンをどう性質決定するか」の一点に集約される、と考えていただくのがよいでしょう。

組成フローと専門家の関与タイミング

以上を踏まえ、組成の流れと、各段階でどの専門家がいつ入るべきかを整理します。

段階 主な作業 関与する専門家
① 構想・設計 事業目的、トークン設計(Capの有無)、分配方針、想定する募集規模の決定 弁護士+会計士・税理士を同時に。最も重要な段階
② 規程整備 定款、DAO総会規約、トークン規約、運営規約の作成 弁護士主導、会計税務の観点で税理士がレビュー
③ 設立登記 出資の払込み、法務局への設立登記申請 司法書士・弁護士
④ トークン発行・運営開始 社員権トークンの発行、移転制限措置の実装、会計帳簿の運用開始 会計士・税理士、技術担当

強調したいのは、①の構想段階で会計税務の専門家を呼ぶことです。トークン設計や分配方針が固まってから相談を受けても、できることは限られます。Capの有無、暗号資産該当性、業務執行社員の構成——これらは登記後の変更が難しく、課税関係を後戻りできない形で確定させてしまうからです。

募集規模の目安にも設計段階で目配りを

トークンによる社員募集を行う場合、金商法上の募集規制も設計に織り込んでおくべきです。実務上の目安として、取得勧誘の相手方が499人以下であれば開示・通知は原則として不要、これを超えて500人以上に募る場合には有価証券通知書等の手続が問題になりうると整理されることが多いとされています(ガイアックスの解説等)。ただし細部は二項有価証券の私募・募集規制に従い、断定はできません。会計税務とは別軸ですが、想定する募集規模は設計の初期に確認しておきたい論点です。

実務チェックポイント

  • 定款の利益分配条項は「配当か払戻しか」が判別できる書き方になっているか
  • トークンにCapを付けるか——暗号資産該当性と発行時課税のリスクを設計段階で潰せているか
  • 業務執行社員は法人か個人か、報酬を払うか(役員報酬類似・源泉徴収の検討)
  • 暗号資産で出資を受ける予定があるか——受入時時価・期末評価の論点を見込めているか
  • 想定する募集規模(499人/500人の目安)を初期に確認したか
  • 構想段階で会計税務の専門家が関与しているか

まとめ

合同会社型DAOは、定款・業務執行社員・トークン設計という三つの設計が、その後の会計処理と課税関係をほぼ決めてしまいます。とりわけトークンにCapを付けるかどうかは、暗号資産該当性と発行時課税という重い論点に直結する分水嶺です。組成は「会社を作る作業」ではなく「会計税務の枠組みを確定させる作業」だと捉え、構想の最初期から専門家を交えて設計することを強くお勧めします。

本記事は2024年後半時点での解説であり、実務の運用はなお発展途上にあります。個別の組成にあたっては、必ず弁護士・会計士・税理士など専門家にご相談ください。連載の関連記事もあわせてご覧ください。

出典・参考

筆者プロフィール

星野宇潮(公認会計士・税理士/RULEMAKERS DAO 監事)

星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士

一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。

連載|合同会社型DAOの会計・税務

公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編

2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。

▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)

  1. 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
  2. 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
  3. 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
  4. 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
  5. 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
  6. 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
  7. 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
  8. 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
  9. 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
  10. 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる(本稿)
  11. 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
  12. 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
  13. 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
  14. 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
  15. 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ

番外編 DAOとAIエージェント——「自律する組織」の設計論

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