前回(なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁)では、2024年4月に施行された金融商品取引法の定義府令改正によって、なぜ「合同会社」という器が選ばれたのかを整理しました。今回はその核心部分、すなわち社員権トークンが金商法上どう扱われるのかを掘り下げます。
「業登録なしでトークンを発行して資金を集められる」——これが合同会社型DAOの最大の魅力として語られます。しかし、なぜそれが可能なのかを正確に説明できる方は意外と多くありません。ここを誤解したまま組成を進めると、知らないうちに無登録業の問題や開示規制に抵触するリスクが生じます。会計・税務の前提として、まずこの金商法の骨格を押さえておきましょう。
そもそも「社員権トークン」は有価証券なのか
結論から言えば、合同会社型DAOの社員権トークンは、金商法上の「有価証券」に該当します。「トークンだから自由に発行できる」のではなく、「有価証券に該当するが、一定の要件を満たすことで規制の軽い類型に整理される」というのが正しい理解です。
金商法は有価証券を大きく二つに分けています。
- 一項有価証券(金商法2条1項)——株券や社債券など、伝統的に流通性が高いとされるもの。開示規制(有価証券届出書・目論見書など)が重く、取扱業者には第一種金融商品取引業の登録が求められます。
- 二項有価証券(みなし有価証券)(金商法2条2項)——本来は証券という「紙」ではない権利を、政策的に有価証券とみなすもの。集団投資スキーム持分などがここに含まれ、規制は一項より相対的に軽い類型です。
合同会社の社員権そのものは、伝統的にこの二項有価証券の世界に属します。問題は、それをトークン化(電子的に記録・移転できる形に)した瞬間に起こりました。
「電子記録移転権利」という落とし穴
2020年の金商法改正で、二項有価証券のうち電子的に移転できるもの(いわゆるセキュリティ・トークン)は「電子記録移転権利」として、あえて一項有価証券と同等の重い規制に格上げされました。流通性が高まることへの投資者保護上の配慮です。
この結果、社員権を素直にトークン化すると「電子記録移転権利=一項有価証券扱い」となり、自己募集にも第二種金融商品取引業の登録が必要になるなど、ハードルが一気に上がってしまいます。ここが、これまで日本でDAO的なトークン発行が現実的でなかった大きな理由の一つでした。
2024年4月の定義府令改正が変えたこと
2024年4月に施行された「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正は、ここに風穴を開けました。改正案は2024年2月1日に公表され、3月4日締切のパブリックコメントを経て、4月1日に公布、4月22日に施行されています。
改正の要点は、一定の要件を満たす合同会社等の社員権トークンを「電子記録移転権利」から除外するという点にあります。除外されると、それは重い一項有価証券扱いではなく、もともとの二項有価証券(みなし有価証券)として扱われます。これにより、自己募集に係る業登録(第二種金融商品取引業の登録)が原則不要となり、開示規制も適用されない、という整理が成り立つようになりました。
電子記録移転権利から「除外」される二つの要件
除外の核心は、府令が定める次の二つの技術的・契約的要件です。実務上、トークン設計と定款設計の出発点になる重要な条件なので、正確に押さえてください。
| 要件 | 内容 | 狙い |
|---|---|---|
| 譲渡制限(移転制限)の措置 | 当該財産的価値(トークン)を、業務を執行する社員以外の者に取得させ、又は移転することができないようにする技術的措置がとられていること | 流通性を技術的に封じ、転々流通する「証券」化を防ぐ |
| 分配のキャップ | トークンに表示される権利を有する者が、その出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は財産の分配を受けることがないこと | 投資商品としての性格(出資額を超えるリターン)を抑え、投機性を限定する |
言い換えると、「自由に転売できないトークン」かつ「払い込んだ額を上回る分配は受けられないトークン」であれば、重い一項規制から外れて二項の世界で扱える、ということです。スマートコントラクトでこの二要件を担保する設計が、合同会社型DAOのトークン設計の出発点になります。
集団投資スキーム持分(2条2項5号)と「別トークン」の論点
もう一つ、組成の現場で必ず論点になるのが集団投資スキーム持分(金商法2条2項5号)です。これは、出資者が事業から生じる収益の配当や財産の分配を受ける権利を、二項有価証券(みなし有価証券)とみなす規定です。ファンド規制の入り口といってよいでしょう。
合同会社の社員権そのものについては前述の整理が当てはまりますが、実務では「社員権トークンとは別のトークン」を発行したいというニーズが出てきます。たとえば、コミュニティ参加用のユーティリティトークンや、特典付与のためのトークンなどです。
ここで注意が必要なのは、その「別トークン」に合同会社の収益の配当や財産の分配を受ける権利が付帯している場合、その別トークン自体が集団投資スキーム持分に該当しうるという点です。該当すれば、別トークンの発行・勧誘について改めて二項有価証券としての募集規制や業規制を検討しなければなりません。
「社員権トークンは整理できたから、別トークンも当然セーフ」とは限らない——この点は実務上の落とし穴として強調しておきます。トークンを複数発行する設計を検討している場合は、それぞれの権利の中身(経済的リターンが付くか)を一つずつ法的に評価する必要があります。
募集と私募——499人/500人の「目安」
業登録の問題をクリアしても、もう一段、開示規制(募集規制)の検討が残ります。二項有価証券についても、取得勧誘の相手方の人数によって手続が変わってくるためです。
ここはやや専門的になりますが、実務上の目安として次のように整理されることが多い、という水準で押さえてください(細部は二項有価証券の私募・募集規制に従うため、断定は避けます)。
| 取得勧誘の相手方 | 位置づけ(目安) | 手続のイメージ |
|---|---|---|
| 499人以下 | 少人数私募の枠内と整理されやすい | 有価証券届出書・目論見書などの開示は原則不要 |
| 500人以上 | 少人数の枠を超え「募集」が問題になりうる | 有価証券通知書等の手続が問題になりうる |
多人数にトークンを広く配りたいDAOほど、この人数ラインを意識する必要があります。とくに有価証券を保有・運用することが主たる事業となるDAO(投資型に近いもの)については、原則として499人までという整理が紹介されており、無制限に社員を集められるわけではない点に留意してください。
勧誘できるのは誰か——業務執行社員の役割
あわせて、誰が勧誘するかも論点になります。実務上は、業務執行社員による取得の勧誘を中心に組み立てる整理が紹介されています。逆にいえば、業務執行社員でない者が広く公募的に勧誘を行うことには慎重であるべき、ということです。
この「業務執行社員」という存在は、後の回で扱う会計・税務の論点(誰が利益分配を受け、どう課税されるか)にも直結します。組成の段階で定款上の業務執行社員の設計とトークン設計を一体で考えることが、金商法・会計・税務のいずれの面でも重要になります。詳しくは組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まるで改めて取り上げます。
実務チェックポイント
金商法の観点から、組成前に最低限確認しておきたい点を整理します。
- 譲渡制限は技術的に担保されているか——「業務執行社員以外に移転できない」措置をスマートコントラクト等で実装できているか。約款上の禁止だけで足りるかは慎重に検討する。
- 分配にキャップがかかっているか——出資・拠出額を超える配当・分配が制度上生じない設計になっているか。ここが崩れると一項規制に戻りうる。
- 別トークンに経済的リターンが付いていないか——付いている場合、集団投資スキーム持分該当性を別途評価する。
- 勧誘の相手方人数と勧誘主体——人数の目安(499人/500人)と、業務執行社員中心の勧誘体制を確認する。
- 「みなし有価証券=何でも自由」ではない——二項に整理されても、募集規制・反社対応・適合性等の実務対応は残る。
まとめ
合同会社型DAOの「業登録不要」は、規制の真空地帯ではなく、定義府令改正によって設計された“出口”です。社員権トークンを (1) 業務執行社員以外に移転できない技術的措置を施し、(2) 出資額を超える分配が生じない形にすることで、電子記録移転権利(重い一項規制)から外れ、二項有価証券として整理される——これが骨格です。そのうえで、別トークンの集団投資スキーム持分該当性、そして募集人数の目安という二つの追加論点を踏まえる必要があります。
ここまでの整理は、次回以降の会計・税務の議論の土台になります。トークンの法的性質が「社員権なのか/集団投資スキーム持分なのか/暗号資産なのか」で、会計処理も課税関係も大きく変わるためです。次回は合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理で、出資と純資産、そして社員権トークン発行の会計処理に進みます。連載の全体像は合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質もあわせてご覧ください。
なお、社員権トークンの有価証券該当性や募集規制の最終的な当てはめは、トークンの権利設計やスマートコントラクトの実装に強く依存します。本稿は組成検討の地図として書いていますが、実際の発行にあたっては金商法に精通した弁護士・専門家への相談を強くおすすめします。
出典・参考
- 金融庁「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等の公表について
- 光雲法律事務所(吉井)合同会社型DAOと定義府令改正について(除外の二要件・集団投資スキーム持分)
- ガイアックス 合同会社型DAOとは?従来のDAOとの違いや注意点
- 日本DAO協会 「合同会社型DAO」とは?弁護士macによる解説
- 弁護士法人中央総合法律事務所「合同会社型DAOについて」(2024年10月29日)
- Plus Web3 合同会社型DAOの解説
筆者プロフィール
星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士
一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。
連載|合同会社型DAOの会計・税務
公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編
2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。
▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)
- 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
- 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
- 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制(本稿)
- 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
- 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
- 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
- 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
- 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
- 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
- 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
- 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
- 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
- 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
- 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
- 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ
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