これまでの回では、合同会社型DAOを発行体(合同会社)の側から見た会計・税務を扱ってきました。第6回・第8回で見たとおり、合同会社は法人課税が原則で、トークン発行や暗号資産の保有をめぐって法人税・消費税の論点が生じます。しかし、DAOに資金を入れるのは個人の出資者・投資家です。「自分が受け取る分配や、トークンを売って得た利益は、いったい何所得になるのか」——ここを誤ると、確定申告の段階で思わぬ追徴を招きかねません。
今回は視点を切り替え、合同会社型DAOに出資する個人(社員・投資家)の側の税務を整理します。論点は大きく三つ。①利益分配は「配当」なのか「損益分配」なのか、②社員権トークンを譲渡して得た利益の所得区分、③一般的な暗号資産取引(雑所得)との境界です。最後に、個人の確定申告で押さえるべき実務チェックポイントをまとめます。
あらかじめ申し上げておくと、合同会社型DAOは2024年4月の金融商品取引法の定義府令改正によって実務に乗り始めたばかりの仕組みであり、個人側の税務には当局の明示的な見解がまだ出そろっていない論点が含まれます。本稿では確定している部分とそうでない部分を分けて述べます。断定できない箇所は、後述のとおり専門家への確認を前提にしてください。
その「分配」は配当か、損益分配か
個人が合同会社の社員として利益を受け取る経路には、性質の異なる二つがあります。混同されがちなので、まず会社法・税法上の整理から確認します。
損益分配(割当て)と利益配当(払戻し)は別物
合同会社では、まず期末に損益分配(損益の割当て)が行われます。これは「会社の儲けのうち、各社員に帰属する持分を計算上割り当てる」手続で、定款で出資割合と異なる比率を自由に定められるのが合同会社の特徴です。ただし、割り当てられた時点では現金は動きません。社員の出資(資本)の内訳が変動するだけで、原則として課税は生じません。
これに対し、実際にお金を受け取るのが利益の配当(利益の払戻し)です。社員が「自分に割り当てられた利益を払い戻してほしい」と請求し、会社が支払う。この払戻しの段階で個人に課税が生じます。期末に損益が割り当てられただけで現金分配がなければ、その時点で個人に所得税は課されないのが原則です。
個人が受け取る利益配当は「配当所得」
合同会社は法人ですから、社員(個人)が受け取る利益の配当は、株式会社の株主配当と同様に「配当所得」に区分されるのが原則です。ここは第6回で説明した「二重課税」の個人側の現れでもあります。会社段階で法人税が課された後の利益を、個人が配当として受け取り、再び所得税の対象になる——という構造です。配当所得の主なポイントは次のとおりです。
| 項目 | 合同会社の利益配当(個人社員) |
|---|---|
| 所得区分 | 配当所得 |
| 課税方式 | 原則として総合課税(給与など他の所得と合算し累進税率) |
| 源泉徴収 | 支払時に20.42%を源泉徴収・翌月10日までに納付(支払者側の義務) |
| 配当控除 | 総合課税を選べば、二重課税調整のための配当控除を適用できる場合がある |
株式会社の上場株式の配当のような申告分離課税や申告不要制度は、合同会社の社員の利益配当には基本的に当てはまりません。総合課税として、他の所得と合算して累進税率で課税されると整理しておくのが堅実です。
「出資額を超える分配」を受けられるのは誰か
ここで合同会社型DAO特有の制約に触れておきます。第3回で見たとおり、社員権トークンが金商法の規制を過度に受けないよう、実務では業務執行社員でない一般の出資者(投資家)は、出資額を限度として収益分配を受ける形に設計されることが多いとされています。出資額を超える収益分配を受けられるのは業務執行社員に限る、という整理です。
つまり一般の投資家が受け取れる「分配」は、自分が払い込んだ出資の払戻しに近い性質を帯びる場合があります。出資の払戻し(資本の払戻し)部分と、利益の配当部分とでは課税の扱いが異なり得るため、受け取った金額の内訳がどう構成されているかを発行体側の処理とあわせて確認する必要があります。この内訳の整理が、後述する確定申告の出発点になります。
社員権トークンの譲渡益は何所得か
次に、保有していた社員権トークンを他者に売却して値上がり益(キャピタルゲイン)を得たケースです。合同会社型DAOでは、トークンの2次流通によるキャピタルゲインの取得が想定されています。問題は、この譲渡益が個人にとってどの所得区分になるか、です。
「持分の譲渡」としての性質
社員権トークンは、その実質が合同会社の持分(社員権)です。会社法上の持分の譲渡は、原則として他の社員全員の同意が必要であり、合同会社型DAOでは技術的措置(トークンの移転制限)などで譲渡をコントロールする設計が前提とされています。譲渡が成立した場合、それは「合同会社の持分という資産を譲渡した」ことになります。
持分という資産の譲渡から生じる所得は、その資産の性質や取引の態様に応じて譲渡所得等として整理されるのが一般的な考え方です。営利を目的として継続的に売買しているような場合には事業所得・雑所得に区分される可能性もあり、保有・取引の実態によって区分が変わり得ます。
当局見解が未確立な論点であること
もっとも、社員権トークンの譲渡益の所得区分について、国税庁の明示的なガイダンスは本稿執筆時点で示されていません。社員権トークンを「暗号資産」として扱うのか、「合同会社の持分(みなし有価証券=二項有価証券)」として扱うのかという入口の整理によって、譲渡益の所得区分も変わり得ます。
- 持分(社員権)として整理する場合:資産の譲渡として譲渡所得等で捉える方向。取引の継続性・営利性が強ければ雑所得・事業所得に振れる余地。
- 暗号資産として整理する場合:後述のとおり、原則として雑所得(総合課税)として捉える方向。
第5回で扱ったとおり、会計上もトークンの性質(暗号資産か、Cap付きの社員権トークンか)で処理が分かれます。税務上の所得区分も、この性質決定と整合させて検討するのが筋であり、「とりあえず雑所得」と決め打ちするのは危険です。実務上は、トークンの設計(譲渡制限の有無、分配の上限、二次流通の前提など)を踏まえて、個別に整理されることが多くなると考えられます。今後の運用と当局見解の蓄積が注目される領域です。
「暗号資産の雑所得」との境界をどう引くか
個人投資家が最も混同しやすいのが、一般的な暗号資産取引の税務と、社員権トークンの税務を地続きに考えてしまうことです。ここは明確に線を引いておきましょう。
純粋な暗号資産取引は原則「雑所得」
ビットコインなどの暗号資産を売却・使用して得た利益は、事業所得等の基因となる行為に付随する場合を除き、原則として雑所得に区分され、総合課税の対象となります(国税庁FAQ)。総合課税は累進税率で、所得税は5%〜45%の7段階、住民税10%を加えると最大で約55%に達します。給与所得者の場合、給与以外の所得が年間20万円以下であれば所得税の確定申告は不要とされる一方、医療費控除などで申告する場合はその所得も含めて申告する必要があります。
三つの「もらい方」で課税が変わる
合同会社型DAOに関わる個人が手にする利益は、どの経路で得たかによって所得区分が変わります。同じ「DAOで得た利益」でも一律ではない、という点が実務上の肝です。
| 受け取りの経路 | 想定される所得区分 | 課税の方向感 |
|---|---|---|
| 社員としての利益配当(払戻し) | 配当所得(原則) | 総合課税。配当控除の余地あり |
| 社員権トークンの譲渡益(2次流通) | 譲渡所得 等/場合により雑所得・事業所得(未確立) | トークンの性質・取引実態で判断。要個別検討 |
| 純粋な暗号資産の売買益 | 雑所得(原則) | 総合課税・累進。最大約55% |
特に、社員権トークンを暗号資産取引のウォレットで他のコインと一緒に扱っていると、記録上は同じ「トークンの売買」に見えてしまうのが落とし穴です。配当所得・持分の譲渡・暗号資産取引は、計算方法も損益通算の可否も異なります。受け取りの根拠(社員としての地位に基づくものか、資産の売買か)を取引ごとに区別して記録しておくことが、後の申告を大きく左右します。
個人の確定申告——実務チェックポイント
最後に、合同会社型DAOに関与する個人が確定申告の前に確認すべき点を整理します。
- 「もらい方」を取引ごとに分類する。利益配当、トークン譲渡、純粋な暗号資産取引を、同じ「暗号資産の入出金」として一括りにしない。所得区分が異なれば計算も申告書の記載欄も別になります。
- 分配金の内訳を発行体に確認する。受け取った金額のうち、利益の配当部分はいくらか、出資の払戻し部分はいくらか。一般投資家は出資額を限度とした分配に設計されている場合があるため、内訳の根拠資料(発行体側の計算書)を入手しておく。
- 源泉徴収の有無と税額を確認する。利益配当として20.42%が源泉徴収されている場合、確定申告で精算する。源泉徴収票・支払調書に相当する資料を保管しておく。
- 取得価額・取引日時を記録する。トークンの取得時の円換算額、譲渡時の円換算額、取引日を残す。暗号資産・トークンは円換算のタイミングと方法が損益額を左右します。
- 20万円の基準を過信しない。給与所得者で他の所得が20万円以下なら所得税の申告不要となる場合があるが、住民税は別途申告が必要なことがあり、また他の理由で確定申告を行う場合は20万円以下でも合算して申告する必要があります。
- 所得区分が未確立な部分は専門家に確認する。社員権トークンの譲渡益の区分は、トークン設計に依存し、当局見解も発展途上です。設計図(定款・トークンの利用規約)を持参して相談するのが確実です。
まとめ
合同会社型DAOの個人側税務は、「配当所得(利益配当)」「譲渡所得等(社員権トークンの譲渡)」「雑所得(純粋な暗号資産取引)」という性質の違う三つの所得が交錯する点に難しさがあります。発行体側で適切に処理されていても、個人がそれを正しい所得区分で申告できるかは別問題です。とりわけ、すべてを「暗号資産の雑所得」に流し込んでしまう誤りは避けたいところです。
受け取りの根拠を取引ごとに区別し、分配の内訳と源泉徴収を発行体に確認し、トークン設計に沿って所得区分を検討する——この三点が、個人投資家にとっての出発点になります。所得区分の未確立な論点が残る以上、組成段階のトークン設計が個人側の課税まで規定することになります。次回は、その組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まるを取り上げます。
あわせて、発行体側の課税構造である法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造、暗号資産税制の前提を整理した暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列もご参照ください。本稿で触れた所得区分の判断には個別事情が大きく影響します。実際の申告にあたっては、トークンの設計資料を整えたうえで税理士等の専門家にご相談されることをお勧めします。
出典・参考
- 金融庁「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等の公表について
- 国税庁 暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
- 合同会社型DAOとは?従来のDAOとの違いや注意点をDAO運営者が解説(ガイアックス)
- 合同会社の社員の配当請求と配当を受けた場合の税金(東京クラウド会計税理士事務所)
- 合同会社の配当や損益分配の方法を解説(GVA 法人登記)
- 合同会社型DAOについて(弁護士法人中央総合法律事務所)
筆者プロフィール
星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士
一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。
連載|合同会社型DAOの会計・税務
公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編
2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。
▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)
- 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
- 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
- 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
- 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
- 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
- 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
- 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
- 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
- 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界(本稿)
- 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
- 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
- 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
- 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
- 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
- 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ
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