合同会社型DAOの組成を検討する方とお話ししていると、ほぼ必ず出てくるのが「うちのトークン、期末に時価評価されて課税されるんですか」という質問です。これはかつて、Web3事業を日本でやるかどうかを左右するほど重い論点でした。そして、ここ二年でその風景は大きく変わりました。
本稿では、法人が保有する暗号資産の期末時価評価課税が何を阻害してきたのか、そして令和5年度・令和6年度の二段階の税制改正でそれがどう緩和されてきたのかを、時系列で整理します。DAOそのものの税制を語る前提として、この流れを押さえておくことは欠かせません。
そもそも「期末時価評価課税」とは何だったのか
法人税の世界では、棚卸資産や有価証券の一部について、期末に時価で評価し直し、含み損益を当期の損益に取り込むという考え方があります。暗号資産についても、改正前は「活発な市場が存在する暗号資産」を法人が保有している場合、自己が発行したものか第三者が発行したものかを問わず、期末に時価評価され、含み益・含み損が課税所得の計算に反映されていました。
言葉だけだとピンとこないので、仕訳のイメージで見てみましょう。仮に、ある法人が取得原価100で保有していた暗号資産が、期末に時価300になっていたとします。改正前の処理は次のようになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産 | 200 | 暗号資産評価益 | 200 |
この評価益200は、まだ一円も売却していない含み益です。にもかかわらず課税所得に算入され、法人税が課されます。実際にトークンを売って現金が入ってきたわけではないので、納税資金は別途どこかから工面しなければなりません。これが、いわゆる「キャッシュフローを伴わない含み益課税」の問題です。
これが何を阻害したのか
影響が最も深刻だったのは、自らトークンを発行するプロジェクトです。Web3のプロジェクトは、発行したトークンの相当部分を発行体(運営法人)が長期保有し、エコシステムの育成やインセンティブ設計に充てるのが一般的です。ところが、保有しているだけで価格が上がれば、売っていないのに法人税がのしかかる。トークン価格が高騰すれば、納税のためにトークンを売却せざるを得ず、それがさらに価格を不安定にする——という悪循環が起こり得ました。
結果として、この税制は「日本でWeb3事業をやる理由をなくす要因」として強く問題視されました。発行体がシンガポールなど国外に法人を置く、いわゆる人材・事業の海外流出が現実に進んだのです。財務省・経済産業省の資料でも、ブロックチェーン技術を活用した企業や事業開発を阻害する要因として明確に指摘されていました。
令和5年度改正——「自己発行」を除外
最初の大きな一手が、令和5年度(2023年度)税制改正でした。ここで導入されたのが、いわゆる「特定自己発行暗号資産」の考え方です。
具体的には、法人が自ら発行し、かつ発行のときから継続して保有している暗号資産であって、その発行時から継続して譲渡についての制限その他の条件が付されている一定のものについて、期末時価評価課税の対象から外す、というものでした。評価方法でいえば、時価法ではなく原価法によることになり、含み益への課税が生じなくなります。
同じ局面を、改正後の処理で見るとこうなります。
| 項目 | 改正前 | 令和5年度改正後(自己発行・要件充足) |
|---|---|---|
| 期末評価 | 時価法 | 原価法 |
| 含み益への課税 | あり | なし |
| 仕訳イメージ | 評価益200を計上 | 評価替えなし(取得原価100のまま) |
これにより、自らトークンを発行してエコシステムを育てる発行体については、「保有しているだけで課税される」というハードルがひとまず取り払われました。Web3スタートアップにとっては大きな前進でしたが、まだ片側の話にすぎませんでした。
令和6年度改正——「第三者発行・継続保有」へ拡張
令和5年度改正で残った宿題が、第三者が発行した暗号資産を継続保有するケースです。自分で発行したものは除外されても、他社が発行したトークンを事業上の必要から長期保有する場合は、依然として期末時価評価の対象でした。事業提携やエコシステム参加のために他プロジェクトのトークンを保有する、という実務は珍しくありませんから、これは無視できない論点でした。
そこで令和6年度(2024年度)税制改正では、第三者発行の暗号資産であっても、一定の要件を満たして継続的に保有するもの——いわゆる「特定譲渡制限付暗号資産」——を期末時価評価の対象から外せるようにしました。
除外されるための二つの要件
第三者発行の暗号資産を時価評価の対象外とするには、おおむね次の二つの要件を満たす必要があると整理されています。
- 譲渡制限が付されていること。他の者に移転できないようにする技術的措置がとられているなど、その暗号資産の譲渡について一定の制限が継続的に付されていること。
- その制限が公表されるための通知手続をとっていること。譲渡制限が付されている旨を認定資金決済事業者協会において公表させるため、暗号資産交換業者に対する通知等を行っていること。
そして評価方法については、自己発行の場合と異なり、原価法と時価法のうち法人が選定した方法によることとされ、選択制が採られています。選定にあたっては届出が前提となる点にも注意が必要で、選定期限は取得日の属する事業年度の確定申告期限とされています。
適用時期
この令和6年度改正は2024年に成立し、令和6年4月1日以後に終了する事業年度の法人税から適用される流れです。記事執筆時点(2024年後半)では、まさに新しいルールのもとで実務が動き出している局面にあります。
二段階の流れを一枚で整理する
ここまでの時系列を、含み益課税の有無という観点でまとめると次のようになります。
| 区分 | 改正前 | 令和5年度改正後 | 令和6年度改正後 |
|---|---|---|---|
| 自己発行・継続保有(要件充足) | 時価評価=課税 | 対象外(原価法) | 対象外(原価法) |
| 第三者発行・継続保有(要件充足) | 時価評価=課税 | 時価評価=課税 | 対象外(原価法・時価法の選択) |
| 上記以外(短期売買目的等) | 時価評価=課税 | 時価評価=課税 | 時価評価=課税 |
重要なのは、「保有していれば自動的に時価評価が外れる」わけではないという点です。あくまで譲渡制限や通知手続といった要件を満たし、継続保有を前提とした暗号資産に限られます。短期の売買やトレーディングを目的とするものは、引き続き期末時価評価の対象です。
会計処理との関係——税務と会計はイコールではない
ここで会計士として一言添えておきます。以上はあくまで法人税法上の取扱いです。会計上の処理は、企業会計基準委員会(ASBJ)の実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」が基礎になり、税務とは別の体系で考える必要があります。
会計上は活発な市場のある暗号資産を時価評価する一方、税務上は原価法で含み益を認識しない——というように、両者がずれる場面が生じ得ます。その差は申告調整(別表)で処理することになります。会計の側の詳細は連載の合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)で扱っていますので、あわせてご確認ください。
DAO組成への含意
では、この税制改正の流れが、合同会社型DAOの組成を考える方にとって何を意味するのか。論点を絞って整理します。
- 「保有しているだけで課税される」恐怖は大きく後退した。 自己発行(令和5年度)・第三者発行の継続保有(令和6年度)のいずれも、要件を満たせば期末時価評価から外れます。トークンを発行・保有してエコシステムを育てるという設計が、税務面でぐっと現実的になりました。
- ただし「要件設計」が生命線になる。 除外の鍵は譲渡制限と通知手続です。トークンに技術的・契約的にどのような譲渡制限を付すか、認定資金決済事業者協会を通じた公表の手続をどう踏むか——これらは組成段階のトークン設計そのものに関わります。後から取り繕うのは容易ではありません。
- 社員権トークンと暗号資産の「色分け」が前提になる。 合同会社型DAOでは、社員権の性質を持つトークンと、暗号資産として扱われるトークンとで論点が分かれます。期末時価評価の議論はあくまで「暗号資産」に関するものであり、社員権トークンの会計・税務はまた別の整理が必要です。この性質決定は組成の入口で決まります。
- 合同会社は法人課税であることを忘れない。 そもそも合同会社型DAOは、任意組合やLPSのようなパススルー課税ではなく、会社段階で法人課税がかかります。期末時価評価が外れても、法人税の基本構造そのものが変わるわけではありません。この点は連載の法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造で詳しく述べています。
実務チェックポイント
- 保有する暗号資産が「活発な市場が存在する」ものかどうかをまず確認する。
- それが自己発行か、第三者発行かを切り分ける。
- 第三者発行の場合、譲渡制限と公表のための通知手続という二要件を満たせるかを検討する。
- 評価方法(原価法/時価法)の選定と、その届出・選定期限を期初の段階で意識しておく。
- 会計上の評価(実務対応報告第38号)と税務上の評価のズレを、別表での申告調整で正しく反映する。
- トークンの譲渡制限設計は、組成・トークン設計の段階で税務要件と整合させておく。
まとめ
法人保有の暗号資産をめぐる期末時価評価課税は、かつてWeb3事業を日本でやることをためらわせる大きな要因でした。それが令和5年度改正で「自己発行」が、令和6年度改正で「第三者発行・継続保有」が、それぞれ要件のもとで除外され、二段階で緩和されてきました。合同会社型DAOの組成を考えるうえでは、この緩和を前提にしつつ、譲渡制限と通知手続という要件をトークン設計に織り込めるかが実務上の勘所になります。
もっとも、要件該当性の判断や評価方法の選定、会計と税務のズレの処理は、個々のトークン設計に強く依存します。組成前の段階で、会計・税務の専門家と要件設計をすり合わせておくことを強くお勧めします。次回は、トークンを発行する「その瞬間」の課税と消費税の論点を扱います(法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税)。
出典・参考
- 国税庁 暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
- 財務省 令和6年度税制改正(パンフレット)
- 国税庁 令和6年度法人税関係法令の改正の概要 9暗号資産の評価方法の見直し等
- 経済産業省 Web3関連 令和6年度税制改正の結果
- 金融庁 定義府令等の改正について(2024年2月1日公表)
- 税理士法人山田&パートナーズ 暗号資産の期末時価評価課税 ~R05大綱
- PwC Japanグループ 暗号資産の評価方法の改正と届出
筆者プロフィール
星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士
一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。
連載|合同会社型DAOの会計・税務
公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編
2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。
▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)
- 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
- 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
- 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
- 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
- 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
- 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
- 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列(本稿)
- 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
- 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
- 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
- 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
- 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
- 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
- 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
- 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ
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