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合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質

合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質

2024年4月22日。日本のWeb3にとって大きな節目になった日です。この日、金融商品取引法(金商法)の定義に関する内閣府令の改正が施行され、いわゆる「合同会社型DAO」が現実的な選択肢になりました。報道では「DAOが解禁された」と表現されることもありますが、専門家として一点だけ先に申し上げておきたいことがあります。「合同会社型DAO法」という名前の法律は存在しません。解禁の実体は、あくまで金商法の定義府令の改正です。ここを正確に押さえるところから、この連載は始めます。

私は公認会計士・税理士として、また一般社団法人RULEMAKERS DAOの監事として、Web3のルールメイクと会計・税務の現場の双方に身を置いています。本稿は全15回+番外編の連載の第1回として、「2024年4月に何が変わったのか」「なぜ会計と税務が組成の成否を分けるのか」を俯瞰し、これから扱う各論の全体像を示します。

このページの目次
  1. 2024年4月22日、何が「解禁」されたのか
  2. 「法人格を持つ」ことの意味
  3. なぜ会計・税務が組成の成否を分けるのか
  4. この連載の地図
  5. 実務チェックポイント(第1回)
  6. まとめ
  7. 出典・参考

2024年4月22日、何が「解禁」されたのか

改正されたのは、正式には「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」等です。金融庁が改正案を公表したのが2024年(令和6年)2月1日、パブリックコメントの締切が同年3月4日、そして4月1日に公布、4月22日に施行されました。

改正の核心は、ひとことで言えば「トークン化された合同会社の社員権を、通常の合同会社の社員権と同等に扱う」ことです。少し噛み砕きます。

「二項有価証券」として扱われるということ

金商法の有価証券は、大きく「一項有価証券」(株式・社債など流通性の高いもの)と「二項有価証券」(集団投資スキーム持分・合同会社の社員権など、いわゆるみなし有価証券)に分かれます。両者は規制の重さが大きく違います。

従来、合同会社の社員権をトークン化すると、ブロックチェーン上で流通しうる性質ゆえに、より規制の重い一項有価証券に近い扱いになりかねず、トークンによる資金調達の足かせとなっていました。今回の改正は、一定の要件を満たす社員権トークンについて、これを二項有価証券(みなし有価証券)として整理することを明確にしました。

「業登録不要」で資金調達と収益分配ができる

この整理で実務上変わることは、主に次の二点です。

  • 自己募集に業登録が原則不要に。二項有価証券の自己募集には、一項有価証券のような重い業規制・開示規制が及びにくく、第二種金融商品取引業の登録なしに、社員権トークンを用いた資金調達がしやすくなりました。
  • 金銭的な収益分配が可能に。社員権であるがゆえに、出資者(社員)への利益分配という形で、トークン保有者にリターンを還元する設計が現実味を帯びました。

これまで日本のDAOは、法人格を持たない任意団体として運営するか、収益分配のないコミュニティとして組成するか、といった窮屈な選択を迫られがちでした。今回の改正で、法人として組成し、収益も分配するという選択肢が加わりました。

募集人数の「目安」には注意

ただし「業登録不要=無条件で自由」ではありません。二項有価証券にも私募・募集の規制があり、取得勧誘の相手方の人数で扱いが分かれます。実務上は、取得勧誘の相手方が499人以下であれば開示・通知は原則不要、500人以上になると有価証券通知書等の手続が問題になりうる、という目安で語られることが多いです。もっとも、これはあくまで目安であり、細部は二項有価証券の私募・募集規制に従います。DAOの設計段階で人数管理をどう組み込むかは、後述の会計・税務とも密接に絡みます(詳細は「社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制」で扱います)。

「法人格を持つ」ことの意味

合同会社型DAOがほかのDAO形態と決定的に異なるのは、合同会社という「法人」を器に使う点です。合同会社は会社法上の持分会社の一種で、れっきとした法人格を持ちます。これは強みであると同時に、会計・税務の論点が一度に増える原因でもあります。

形態 法人格 課税の扱い
合同会社(日本版LLC) あり(持分会社) 法人課税(普通法人)
有限責任事業組合(LLP) なし パススルー(構成員課税)
投資事業有限責任組合(LPS) なし パススルー(構成員課税)
任意組合 なし パススルー(構成員課税)

ここで多くの方が誤解されるのが、米国のLLCとの混同です。米国のLLCはパススルー課税と法人課税を選択できますが、日本版LLCである合同会社にその選択肢はありません。日本の合同会社は法人税法上の普通法人として、必ず法人課税の対象になります。LLP・LPS・任意組合のような構成員課税(パススルー)は適用されないのです。

つまり、会社段階で利益に法人税が課され、社員への利益分配の段階でさらに課税が生じうる、という二段階(二重課税的)の構造を、はじめから織り込んで設計しなければなりません。これは合同会社型DAOを検討するうえで最初に理解しておくべき前提です(詳細は「法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造」で扱います)。

なぜ会計・税務が組成の成否を分けるのか

「法的に組成できる」ことと「事業として回る」ことは別の話で、その間で問題になるのが会計・税務です。合同会社型DAOで会計・税務が要になる理由を、三つの軸で整理します。

1. 暗号資産の期末時価評価という固有のリスク

DAOは暗号資産・トークンを保有・発行することが多く、ここに法人特有の税務リスクがあります。改正前は、法人が保有する「活発な市場が存在する暗号資産」は、自己発行・第三者発行を問わず期末に時価評価され、含み損益が課税対象でした。値上がりした自社トークンを売却していないのに、評価益に課税される。この仕組みが、ブロックチェーン企業の海外流出を招く要因とされてきました。

この点は税制改正で段階的に手当てされています。令和5年度改正で、法人が継続保有する自己発行暗号資産が期末時価評価の対象外となり、令和6年度改正では、第三者発行の暗号資産についても、譲渡制限が付されているなど一定の要件を満たし継続的に保有するものは、時価評価の対象外とする方向で整理が進みました。DAOの財務設計は、この税制の流れを踏まえて行う必要があります(時系列の全体像は「暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列」で整理します)。

2. DAO固有の会計基準は存在しない

意外に思われるかもしれませんが、「DAOの会計基準」というものは存在しません。トークン発行(資金調達)という特殊な論点を除けば、会計処理の基本は通常の合同会社と同じです。暗号資産の保有・自己発行については、ASBJの実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」が基礎になります。

厄介なのは、社員権トークンが「暗号資産」なのか「キャップ(Cap)の付された社員権トークン」なのか、その性質次第で処理が分岐する点です。たとえば出資を受けた局面の仕訳イメージは、ごく単純化すると次のようになります。

借方 貸方 摘要
現金預金 / 暗号資産 資本金 等(純資産) 社員からの出資(社員権トークンの発行)

受け取ったお金が出資なのか、収益(売上)なのか、預り金なのか。入口でのこの判断を誤ると、純資産と損益、ひいては課税のすべてがずれていきます(会計処理の詳細は「合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理」で扱います)。

3. 「誰に・いつ・どう課税されるか」の地図が複雑

合同会社型DAOでは、課税のプレイヤーが少なくとも二層に分かれます。DAO(合同会社)側と、トークンを持つ投資家・社員側です。会社段階の法人税、トークン発行時の課税や消費税、そして社員側の分配・譲渡益課税(雑所得との境界も論点になります)。これらがすべて噛み合って初めて、設計は完成します。会計・税務を後回しにして組成すると、後から取り返しのつかないコストが生じます。

この連載の地図

本連載は、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計・税務を軸に全15回+番外編で構成します。

  1. 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質(本稿)
  2. なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
  3. 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
  4. 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
  5. 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
  6. 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
  7. 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
  8. 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
  9. 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
  10. 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
  11. まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
  12. 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
  13. DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
  14. 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
  15. 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ

加えて、「番外編:DAOとAIエージェント——「自律する組織」の設計論」を収録しています。

実務チェックポイント(第1回)

  • 「合同会社型DAO法」は存在しない。根拠は金商法の定義府令改正(2024年4月22日施行)であると正確に理解する。
  • 社員権トークンが二項有価証券として整理されることで、業登録なしの資金調達・収益分配の道が開けた。ただし私募・募集規制(人数の目安)は要確認。
  • 合同会社は法人格を持ち法人課税。米国LLCのようなパススルー選択はできない。二重課税的構造を前提に設計する。
  • 暗号資産の期末時価評価課税は税制改正で緩和の方向。自己発行・第三者発行で扱いが異なるため、保有資産の性質を棚卸しする。
  • DAO固有の会計基準はない。トークンの性質(暗号資産か社員権トークンか)で会計処理が分岐する点に注意。

まとめ

2024年4月22日の定義府令改正は、合同会社型DAOという新しい器を日本に用意しました。しかし器が手に入ったことと、それを健全に運営できることは別の話です。法人格を持つがゆえに、会計・税務が組成の成否を分ける。これが本連載を貫く問題意識です。

合同会社型DAOは制度として極めて新しく、当時未解決の実務論点(持分譲渡のシームレス化の扱いなど)も少なくありません。実務上は「~と整理されることが多い」というレベルにとどまる部分もあり、今後の運用の蓄積が注目されます。組成を具体的に進める際は、必ず専門家にご相談ください。次回は、数あるビークルの中でなぜ「合同会社」が選ばれたのかを掘り下げます(「なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁」)。

出典・参考

筆者プロフィール

星野宇潮(公認会計士・税理士/RULEMAKERS DAO 監事)

星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士

一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。

連載|合同会社型DAOの会計・税務

公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編

2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。

▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)

  1. 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質(本稿)
  2. 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
  3. 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
  4. 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
  5. 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
  6. 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
  7. 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
  8. 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
  9. 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
  10. 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
  11. 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
  12. 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
  13. 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
  14. 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
  15. 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ

番外編 DAOとAIエージェント——「自律する組織」の設計論

次の回:第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁 →

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