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法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造

法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造

合同会社型DAOの組成相談を受けていて、最も多い誤解がここにあります。「DAOは組合のようなものだから、利益はそのまま参加者に流れて、団体には税金がかからないんですよね?」——いいえ、そうではありません。合同会社は、れっきとした法人です。そして法人である以上、まず会社の段階で法人税が課されます。

この連載でこれまで、なぜ「合同会社」だったのかという器選びの背景や、出資・純資産・社員権トークン発行の会計処理を見てきました。今回からは税務、それも最も重要な前提である「法人課税」の話に入ります。ここを取り違えると、組成スキームそのものが税負担の面で破綻しかねません。本稿は、その落とし穴を平易に解きほぐすことを目的とします。

「合同会社」は組合ではない——まず法人格の有無を見る

事業の器(ビークル)を税務の観点から分類するとき、最初に確認すべきは「法人格があるかどうか」です。法人格の有無が、課税の方式を根本から決めるからです。

合同会社は、会社法上の持分会社の一類型であり、株式会社などと同じく法人格を持ちます。アメリカのLLC(Limited Liability Company)を参考に2006年の会社法施行で導入された「日本版LLC」と呼ばれますが、本家アメリカのLLCが「法人課税」と「パススルー課税」を選択できるのに対し、日本の合同会社にその選択肢はありません。法人格を持つ以上、法人税法上は当然に「普通法人」として法人課税されます。

一方、DAO的な共同事業の器としてしばしば比較される任意組合(民法上の組合)、LLP(有限責任事業組合)、LPS(投資事業有限責任組合)は、いずれも法人格を持たない組合です。法人格がないので、組合自体には法人税が課されません。組合段階で生じた損益は、出資者である組合員に直接帰属し、組合員のところで課税されます。これがパススルー課税(構成員課税)です。

器ごとの課税方式の比較

器(ビークル) 法人格 課税方式 団体段階の法人税
合同会社(=合同会社型DAOの器) あり 法人課税 かかる
株式会社 あり 法人課税 かかる
任意組合(民法上の組合) なし パススルー(構成員課税) かからない
LLP(有限責任事業組合) なし パススルー(構成員課税) かからない
LPS(投資事業有限責任組合) なし パススルー(構成員課税) かからない

名前に「LL(有限責任)」が並ぶため、合同会社(LLC)とLLP・LPSは混同されがちですが、税務上はまったくの別物です。合同会社だけが法人で、法人課税される——この一点を、まず頭に刻んでおいてください。

合同会社型DAOで「組合のパススルー」は使えない

ここで連載の前提を改めて確認します。今回解禁された「合同会社型DAO」は、第1回で述べたとおり、2024年4月施行の金融商品取引法の定義府令改正によって可能になったものです。トークン化された合同会社の社員権を、一定の要件のもとで通常の社員権と同等に扱う、という整理です。

つまり、この枠組みが対象とする器は、あくまで合同会社です。「DAO」という響きから組合的なフラットさを連想しても、税務上の実体は法人にほかなりません。組合のパススルー課税を期待してDAOを立ち上げると、想定外の法人税が会社段階で発生することになります。

「では組合(LPS等)でDAOを組めばパススルーになるのでは」と考える方もいるでしょう。しかし、組合には組合の制約があります。任意組合では組合員が無限責任を負いますし、LPSは投資事業に用途が限定され、トークンによる広い資金調達・利益分配を行う器としては必ずしも適しません。今回の府令改正が「合同会社」を選んだのは、有限責任を確保しつつトークンで社員権を流通させられる器として合理的だったからです。その代償として、課税は法人課税になる——これが構造上のトレードオフです。

二段階課税の構造——会社段階と分配段階

法人課税であることの具体的な帰結が、二段階課税(二重課税的な構造)です。順を追って見ましょう。

第1段階:会社段階の法人税

合同会社型DAOが事業で利益を上げると、まず会社の所得に対して法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税が課されます。仮に税引前利益を1,000、法人実効税率を約30%とすると、ごく単純化すれば次のイメージです(数字はあくまで説明用の概算)。

項目 金額(イメージ)
税引前利益 1,000
法人税等(実効税率 約30%と仮定) △300
税引後利益(分配の原資) 700

第2段階:分配(利益配当)段階の課税

会社が税引後利益700の中から社員に利益の配当を行うと、今度は受け取った社員の側で課税されます。社員が個人であれば、合同会社からの利益の配当は配当所得に該当し、原則として総合課税の対象となります。非上場の合同会社からの配当ですので、支払時に源泉徴収(所得税20.42%)が行われ、社員は確定申告で精算します。

このように、同じ利益の源泉に対して、会社段階(法人税)と社員段階(所得税)で二度課税される——これが「二重課税」と呼ばれる構造です。組合のパススルーであれば団体段階の課税がない分、この重複は生じません。合同会社を選んだ時点で、この一段重い課税構造を引き受けることになるわけです。

なお、個人社員の配当所得には配当控除という税額控除が用意されており、二重課税の緩和が一定程度図られています。とはいえ控除には限度があり、二重課税が完全に解消されるわけではありません。「配当控除があるから気にしなくてよい」という整理は危険で、実際の税負担は社員の所得水準や配当の規模によって変わります。

仕訳イメージ(会社側)

会社側で利益の配当を決議・支払う際の仕訳イメージは、次のとおりです(源泉徴収を含む単純化した例)。

  • 配当決議時:(借)繰越利益剰余金 700 /(貸)未払配当金 700
  • 支払時:(借)未払配当金 700 /(貸)現預金 557・預り金(源泉所得税) 143 ※ 700×20.42%≒143
  • 源泉税の納付:(借)預り金 143 /(貸)現預金 143

ポイントは、配当の原資はあくまで法人税を払った後の繰越利益剰余金だという点です。組合のように「稼いだそばから構成員に課税」される世界とは、お金の流れの設計思想が根本的に違います。

「給与で分配すれば二重課税を避けられる」は要注意

二重課税を嫌って、「配当ではなく報酬(給与)として社員に支払えば、会社の損金になって法人税が減るのでは」と考える方がいます。理屈としては一理ありますが、ここにも合同会社特有の落とし穴があります。

合同会社の業務執行社員・代表社員は、税務上は「役員」に該当します。そのため、支払う業務執行報酬は法人税法上の役員給与の規律(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当しなければ損金不算入)を受けます。さらに、業務執行社員は使用人兼務役員にはなれないため、報酬は全額が役員給与として扱われます。届出や定額支給のルールを外すと、思ったように損金に落ちず、法人税の節約にならないどころか手続上のリスクを抱えることになります。

また、定款で業務執行社員を限定していても、実質的に経営に従事している社員や代表社員の親族等は「みなし役員」と判定され、役員給与の規律に取り込まれる場合があります。DAOのように「みんなで運営する」フラットな運営実態は、税務上は「誰が役員に当たるのか」の判定を難しくします。報酬での分配設計は、役員給与ルールを十分に踏まえて行う必要があります。

器の選択が、税負担と設計自由度を左右する

ここまでを整理すると、合同会社型DAOの税務を考えるうえでの出発点は明快です。

  • 合同会社は法人であり、パススルー課税は使えない。
  • 利益は会社段階(法人税)+分配段階(社員の所得税)の二段階で課税される。
  • 個人社員の配当には配当控除があるが、二重課税が完全に消えるわけではない。
  • 報酬での分配は、業務執行社員=役員という前提で役員給与ルールを踏まえる必要がある。

裏を返せば、合同会社という器は、有限責任とトークンによる社員権流通という大きなメリットと引き換えに、組合より一段重い課税構造を内包している、ということです。器の選択(合同会社か組合か、誰を業務執行社員にするか、利益を配当で出すか報酬で出すか)が、そのまま税負担と設計自由度を決めます。「DAOだからパススルー」という思い込みは、最初に捨てるべき前提です。

組成前のチェックポイント

  1. その器は合同会社か、組合(LLP・LPS等)か。法人格の有無を最初に確認する。
  2. 会社段階の法人税を織り込んだ上で、参加者への分配後の手取りを試算しているか。
  3. 分配は配当か報酬か。報酬なら役員給与ルール(定期同額・事前確定届出等)を満たす設計になっているか。
  4. 業務執行社員・みなし役員の範囲を、運営実態に照らして整理できているか。
  5. 個人社員・法人社員で課税関係が異なる点を、社員構成に応じて確認しているか。

まとめ

合同会社型DAOは、組合のような構成員課税ではなく、法人課税が大前提です。会社段階と分配段階の二段階課税という構造を理解しないまま組成すると、想定外の税負担に直面します。今回は「器=法人」という最も重要な前提を確認しました。

次回は、この法人課税を前提に、暗号資産税制が令和5・6年度改正でどう変わったかを時系列で整理し、合同会社型DAOが保有・発行するトークンの期末課税の論点に踏み込みます。あわせて、トークン発行時の課税と消費税の論点も、本稿の「法人課税」を土台として理解していただけるはずです。

分配設計や役員給与の取扱いは、社員構成やトークン設計によって最適解が変わる、まさに「実務上の整理が分かれる」領域です。組成を具体的に検討される際は、早い段階で会計・税務の専門家に相談されることをお勧めします。

出典・参考

筆者プロフィール

星野宇潮(公認会計士・税理士/RULEMAKERS DAO 監事)

星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士

一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。

連載|合同会社型DAOの会計・税務

公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編

2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。

▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)

  1. 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
  2. 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
  3. 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
  4. 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
  5. 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
  6. 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造(本稿)
  7. 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
  8. 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
  9. 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
  10. 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
  11. 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
  12. 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
  13. 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
  14. 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
  15. 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ

番外編 DAOとAIエージェント——「自律する組織」の設計論

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