前回(合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質)では、2024年に「合同会社型DAO」が実務上組成できるようになったことの全体像を整理しました。今回はその核心、つまりなぜ器として「合同会社」が選ばれたのか、そして何が法的な壁となっていて、それをどの改正が外したのかを、制度の中身に立ち入って解説します。
ここを正確に押さえておくことは、後半で扱う会計・税務の議論の土台になります。会計処理も課税関係も、結局は「この組織が法的に何者か」から逆算して決まるからです。なお、よく「合同会社型DAO法」という言い方を見かけますが、そのような単独の法律は存在しません。実態は、会社法上の合同会社という既存の器に、金融商品取引法(金商法)の定義府令の改正(2024年4月施行)が組み合わさったことで道が開けた、というのが正確な理解です。
そもそもDAOに「法人格」が要る理由
DAO(分散型自律組織)は、本来は法人格を持たない人々の集まりとしても成立します。しかし、法人格がないままだと現実的な活動には大きな制約が生じます。
- 契約主体になれない——銀行口座の開設、オフィスの賃借、業務委託契約などを組織名義で締結できない。
- 責任の所在が曖昧——対外的なトラブルが起きたとき、参加者個人が無限に責任を負うリスク(任意組合的な扱い)が残る。
- 税務上の取扱いが不安定——誰がどの段階で課税されるのかが整理しにくい。
そこで「DAOに法人格を与える」というアプローチが検討されました。問題は、日本の既存の法人形態のうち、どれがDAOの性質に最も馴染むかです。
株式会社でも一般社団でもなく、なぜ合同会社か
候補は主に三つありました。株式会社、一般社団法人、そして合同会社です。それぞれを実務的な観点で比べると、合同会社が選ばれた理由が見えてきます。
| 形態 | 有限責任 | 法人格 | 内部設計の自由度 | DAOとの相性 |
|---|---|---|---|---|
| 株式会社 | あり | あり | 低い(機関設計・株主の権利が法定で硬い) | 株式(エクイティ)とトークンが二層化しやすく、設計が重い |
| 一般社団法人 | あり | あり | 中程度 | 「持分なし=出資者への利益分配ができない」ため資金調達・収益分配に不向き |
| 合同会社(LLC) | あり | あり | 高い(定款自治が広い) | 持分(社員権)への分配が可能で、内部ルールを柔軟に設計できる |
整理すると、合同会社が支持された理由は次の三点に集約されます。
1. 有限責任と法人格の両立
合同会社は会社法上の持分会社の一類型ですが、社員(出資者)は全員が有限責任社員です。つまり出資額を限度とする責任で済み、かつ法人格を持つので組織名義で契約・取引ができます。日本版LLC(Limited Liability Company)と呼ばれるゆえんです。この「有限責任+法人格」は、不特定多数が参加するDAOにとって最低限の安全装置になります。
2. 広い定款自治
合同会社の最大の特徴は定款自治の広さです。株式会社では株主平等原則や法定の機関設計に縛られますが、合同会社は会社法の原則と異なる定めを定款で広く置けます。議決権の配分、利益分配の割合、業務執行のあり方などを、出資比率に縛られず自由に設計できる。DAOのように「貢献度に応じてガバナンス権や分配を変えたい」という発想とよく馴染みます。
3. 税務上の取扱いの明確さ
制度設計の議論でも、税務上の取扱いの明確性と既存法との整合性から、まずは合同会社を下敷きにするのが最適と判断されました。合同会社は法人税法上の普通法人として確立しており、課税の入口で迷いが少ない。ここは魅力であると同時に、後述する注意点(パススルーではない=法人課税)にも直結します。この点は本連載の法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造で深掘りします。
立ちはだかっていた壁——持分譲渡には「全社員の同意」
では、合同会社がそんなに優れているなら、なぜこれまでDAOの器として使われてこなかったのか。最大の障壁が持分(社員権)の譲渡制限でした。
会社法585条1項は、社員は「他の社員の全員の承諾がなければ」その持分の全部または一部を他人に譲渡できない、と定めています。さらに、社員の氏名・住所は定款の記載事項であるため、持分が動けば定款変更を伴い、原則として総社員の同意が必要になります。
これはDAOにとって致命的でした。DAOの肝は、社員権をトークン化してブロックチェーン上で自由に流通させることにあります。ところが従来法のままでは、トークンが一人の手から別の手に移るたびに、理論上は全社員の同意と定款変更手続が要る。数百人規模の組織でこれを毎回回すのは現実的に不可能です。トークンの「流通性」と合同会社の「閉鎖性」が真っ向から衝突していたわけです。
なお、会社法585条2項・3項には例外があり、業務を執行しない有限責任社員については、業務執行社員全員の承諾があれば持分を譲渡でき、それに伴う定款変更も業務執行社員の同意で足りる、とされています。後述するDAOの「業務執行社員/その他の社員」という二層構造は、この条文の枠組みを巧みに使ったものです。
府令改正が外したのは「金商法の壁」
ここで誤解しやすいのが、「壁」が一つではなかったという点です。持分譲渡の手続という会社法上の壁とは別に、もう一つ金商法上の壁が立ちはだかっていました。そして2024年の府令改正が直接外したのは、この金商法の壁のほうです。
改正前——社員権トークンは「一項有価証券」扱いの懸念
改正前は、流通性の高い社員権トークン(電子的に移転できる社員権)を発行しようとすると、これが金商法上の一項有価証券に該当しうると整理されていました。一項有価証券に当たると、自己募集に係る業規制や厳格な開示規制がかかり、DAOの組成そのものが「大きな障害」に直面します。
改正の中身——「通常の合同会社の社員権と同等」に
2024年2月1日に金融庁が改正案を公表し、パブリックコメント(締切3月4日)を経て、2024年4月1日公布・4月22日施行となったのが、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正です。要点はこうです。
- トークン化された合同会社等の社員権について、一定の要件を満たす場合には、通常の合同会社の社員権と同等の規制——すなわち金商法上の二項有価証券(みなし有価証券)として扱う。
- これにより、第二種金融商品取引業の業登録なしで、社員権トークンによる資金調達と金銭的な収益分配が可能になった。
かみ砕くと、流通性ゆえに重い規制が想定された社員権トークンを、「中身は普通の合同会社の社員権なのだから、それと同じ扱いでよい」と整理し直した、ということです。具体的には、業務執行社員が保有するトークンや収益を分配しないトークンなどについて規制を免除する形で、DAOが現実的に回せる設計が組み込まれました。
実務で生まれた「二層構造」
この府令改正と会社法585条2項の例外を組み合わせる形で、実務では社員を二つに分ける設計が定着しつつあります。
| 区分 | イメージ | 役割 | トークンの位置づけ |
|---|---|---|---|
| 業務執行社員 | 活発に動かす中核メンバー | 業務執行・ガバナンス | 業務執行社員権トークン(譲渡先が限定される設計が一般的) |
| その他の社員 | 見守る・支える参加者 | 出資と分配の受領 | 社員権トークン(より流通性を持たせやすい) |
この二層化により、流通させたいトークンは「業務を執行しない有限責任社員」の枠で扱い、585条の例外(業務執行社員の同意で譲渡・定款変更が可能)に乗せる、という整理が可能になります。
会社法側の壁——産競法改正との役割分担
ここで重要なのが、府令改正は金商法の壁を外したにすぎず、会社法側の持分譲渡・定款変更の手続という壁を直接撤廃したわけではない、という点です。この会社法側の整備は、金商法とは別の改正で進められました。
すなわち、2024年に成立した「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」です。その一部が2024年9月2日に施行され、たとえばLPS(有限責任事業組合)の投資対象に合同会社の持分取得等が追加されるなど、周辺の投資環境整備が図られました。
あわせて、法務省との協議を踏まえ、ブロックチェーン上のトークン移転をもって持分譲渡や定款変更とみなす方向の整理や、社員の氏名・住所を原則として開示しない取扱いなど、トークンベース運営を可能にするための実務的な手当ても進められてきました。金商法の定義府令改正と産競法改正をはじめとする会社法側の整備は、それぞれ別の壁を担当する「車の両輪」だと理解しておくと、制度の全体像を取り違えずに済みます。
| 外したい壁 | 担当する改正 | 時期 |
|---|---|---|
| 社員権トークンへの重い有価証券規制 | 金商法 定義府令の改正 | 2024年4月1日公布/4月22日施行 |
| 持分譲渡・流通をめぐる周辺の投資・運営環境 | 産業競争力強化法等の改正(の一部) | 2024年9月2日施行 |
組成を検討する実務家へのチェックポイント
- 「合同会社型DAO法」という法律はない。正しくは「金商法の定義府令改正(2024年4月施行)+会社法・産競法側の整備」の組み合わせ。社内説明や対外資料での表現に注意。
- 金商法の壁と会社法の壁を分けて考える。トークンの規制(金商法)と持分譲渡の手続(会社法)は別問題。どちらも設計でクリアする必要がある。
- 社員の二層構造(業務執行社員/その他の社員)を最初に設計する。誰がどのトークンを持ち、どこまで流通させるかで、585条の同意要件のかかり方が変わる。
- 「二項有価証券として扱われるための要件」を満たしているか。業登録不要で進められるのは一定要件を満たす場合に限られる。発行スキームは設計段階で専門家の確認を。
- 募集の規模に注意。取得勧誘の相手方が499人以下なら開示・通知は原則不要、500人以上になると有価証券通知書等の手続が問題になりうる、というのが一つの目安です。細部は二項有価証券の私募・募集規制に従うため、断定は禁物で、実務では事前確認が欠かせません(次回詳述)。
まとめ
合同会社が選ばれたのは、有限責任・法人格・広い定款自治・税務上の明確さという素地がDAOに最も馴染んだからです。そしてDAOの実現を阻んでいたのは、第一に社員権トークンに重い規制をかけてしまう金商法上の壁、第二に持分譲渡に全社員同意を求める会社法上の壁でした。前者を外したのが2024年4月施行の定義府令改正、後者の環境を整えたのが産競法改正をはじめとする会社法側の整備です。
もっとも、社員権トークンが「二項有価証券」として扱われるための要件や、募集人数のライン、持分譲渡をどこまでシームレスにできるかといった論点には、本稿執筆時点(2024年後半)でなお運用の固まりきっていない部分が残ります。今後の実務の積み重ねが注目されるところです。
次回は、この「社員権トークンと金商法」の関係をさらに掘り下げ、有価証券該当性と募集規制の具体を扱います。あわせて、トークンの会計処理を扱う合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理も、本稿の法的整理を前提に読むと理解が深まります。
出典・参考
- 金融庁「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等の公表について
- 経済産業省 産業競争力強化法等改正法の一部施行(2024年9月2日)
- ガイアックス 合同会社型DAOとは?従来のDAOとの違いや注意点
- Plus Web3 Media 3分で読める「合同会社型DAOが4月22日から設立可能」
- 衆議院議員 塩崎彰久 合同会社型DAO解禁へ
- クレアール 会社法第585条【持分の譲渡】解説
- RSM汐留パートナーズ 合同会社の定款で別段の定めをすることができる事項
筆者プロフィール
星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士
一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。
連載|合同会社型DAOの会計・税務
公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編
2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。
▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)
- 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
- 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁(本稿)
- 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
- 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
- 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
- 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
- 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
- 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
- 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
- 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
- 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
- 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
- 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
- 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否
- 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ
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