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合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否

合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否

組成の話が続いたので、増補第3弾は「1年目の終わり」=決算の実務です。合同会社は株式会社より決算のルールが軽い。それは事実ですが、DAOとして運営すると合同会社の会計の「素の姿」がむしろ負担になる場面があります。キーワードは「社員ごとの資本管理」です。

このページの目次
  1. 株式会社と比べた合同会社の決算
  2. 社員資本は「社員ごと」に管理するのが要点
  3. 暗号資産の期末処理では、会計と税務のズレを申告調整する
  4. 決算スケジュールの型(12か月目〜申告まで)
  5. 実務チェックポイント(第14回)
  6. まとめ
  7. 出典・参考

株式会社と比べた合同会社の決算

項目 株式会社 合同会社
計算書類の作成 義務 義務(会社法617条。貸借対照表・損益計算書等)
決算公告 義務 不要
定時株主総会での承認 必要 社員総会の制度なし(定款設計による)
会計監査人 大会社は必須 設置制度なし(法定監査は原則なし)
法人税等の申告 いずれも事業年度終了から原則2か月以内

「公告不要・監査なし」と聞くと気楽に見えますが、会計帳簿と計算書類の作成義務はしっかりありますし、税務申告は普通法人としてフルセットで必要です。むしろ外部のチェックが制度上働かないぶん、自律的な経理体制がDAOの信頼性を左右します。ガバナンスの透明性を掲げるDAOであれば、義務がなくても計算書類をコミュニティに開示する運用は検討に値します。

社員資本は「社員ごと」に管理するのが要点

持分会社である合同会社の純資産は、株式会社と発想が異なります。資本金・資本剰余金・利益剰余金を、社員ごとに区分して管理するのが基本です。出資の受入れ、利益(損失)の配賦、配当は、すべて「どの社員の持分がいくら動いたか」を追いかけて記録します。

社員が数名の通常の合同会社なら大した話ではありません。しかし社員権トークンで数十人・数百人の社員を抱えるDAOでは、この「社員別台帳」が実務上いちばんの負担になります。決算のたびに、損益の配賦割合(定款で自由に設計できますが、その分「決めた通りに計算する」義務が生じます)に従って各社員の持分を更新し、配当すれば源泉徴収(20.42%)と支払調書の事務が発生します(「投資家・社員側の税務」参照)。

  • 組成時に損益配賦と配当のルールを定款で単純明快にしておく(複雑な設計は毎期の計算コストを増やす)。
  • トークンの移転=社員の入れ替わりが起きる設計なら、期中の持分異動をいつ・どう記録するかを先に決める。
  • 社員別台帳はスプレッドシートでもよいが、トークンの保有記録と突合可能な形式にする。

暗号資産の期末処理では、会計と税務のズレを申告調整する

決算のもう一つの山が暗号資産です。会計は実務対応報告第38号(「会計②」)に従い、活発な市場があるものは期末時価評価、なければ取得原価(減損あり)。一方、税務は令和5・6年度改正(「改正の時系列」)により、自己発行分や、譲渡制限等の要件を満たす継続保有分は期末時価評価の対象外にできます。

結果として「会計では評価損益を計上したが、税務では認識しない」というズレが生じ、法人税申告書の別表での申告調整が必要になります。決算作業の段取りとしては、次の順序をおすすめします。

  1. 期末保有トークンの棚卸し(銘柄・数量・取得原価・自己発行/第三者発行の別・譲渡制限の有無)
  2. 会計上の評価(38号)を確定→計算書類へ
  3. 税務上の評価方法(時価評価の対象外とする要件充足の確認・届出の要否)を確認→別表調整
  4. 翌期に向けて、評価方法や要件充足の証跡(ウォレット記録・ロック設定等)を保存

決算スケジュールの型(12か月目〜申告まで)

時期 やること
期末1か月前 トークン・暗号資産の棚卸し準備、社員別台帳の異動整理、未収未払の洗い出し
期末 期末時点の時価取得(取引所レートの記録)、残高証跡の保存
期末後1か月 計算書類の作成、損益配賦の計算、(配当するなら)源泉徴収の準備
期末後2か月 法人税・地方税・消費税の申告納付。コミュニティへの決算報告(任意だが推奨)

実務チェックポイント(第14回)

  • 合同会社は決算公告不要・法定監査なしだが、計算書類の作成義務と税務申告はフルにある。透明性は自前で担保する。
  • 社員資本は社員ごとに管理。社員数が多いDAOは「社員別台帳×トークン保有記録の突合」を決算前でなく日常業務に組み込む。
  • 損益配賦・配当のルールは定款で単純に。複雑さは毎期のコスト。
  • 暗号資産は会計(38号)と税務(改正後)の評価がズレる前提で、別表調整と証跡保存をセットで設計する。
  • 申告期限は事業年度終了から原則2か月。暗号資産の棚卸しは前倒しで。

まとめ

合同会社型DAOの決算は、「制度が軽い」のではなく「制度が任せてくれているぶん、自分で回す量が多い」が正しい理解です。特に社員別の資本管理は、トークンで社員が増えるほど重くなる、DAOならではの実務です。1期目の決算を乗り切る体制は、組成の時点から逆算して作っておきましょう。

出典・参考


筆者プロフィール

星野宇潮(公認会計士・税理士/RULEMAKERS DAO 監事)

星野宇潮(ほしの・うしお)/公認会計士・税理士

一般社団法人RULEMAKERS DAO(コンセプト「Democracy 2.0」)の監事。Web3・ブロックチェーン領域のルールメイクと、合同会社型DAOをはじめとする新しい組織形態の会計・税務に取り組む。本連載では、合同会社型DAOの組成を検討する起業家・実務家に向けて、会計と税務の勘所を実務目線で解説しています。

連載|合同会社型DAOの会計・税務

公認会計士・税理士 星野宇潮による全15回+番外編

2024年4月22日施行の金融商品取引法 定義府令改正によって可能になった「合同会社型DAO」について、組成・会計・税務の実務を体系的に解説する連載です。関心のある論点から読めます。

▶ まとめて読む:合同会社型DAOの会計・税務 完全ガイド(器の比較表・判定フロー・FAQ12問・連載全16本の索引)

  1. 第1回 合同会社型DAOが「解禁」された——会計士・税理士が見たその本質
  2. 第2回 なぜ「合同会社」だったのか——府令改正で外れた壁
  3. 第3回 社員権トークンと金商法——有価証券該当性と募集規制
  4. 第4回 合同会社型DAOの会計①——出資・純資産・社員権トークン発行の処理
  5. 第5回 合同会社型DAOの会計②——暗号資産の会計(実務対応報告第38号)
  6. 第6回 法人税の罠①——合同会社は「パススルーではない」二重課税の構造
  7. 第7回 暗号資産税制はこう変わった——令和5・6年度改正の時系列
  8. 第8回 法人税の罠②——トークン発行時の課税と消費税
  9. 第9回 投資家・社員側の税務——分配と譲渡益、雑所得との境界
  10. 第10回 組成の実務——定款・業務執行社員・トークン設計で会計税務が決まる
  11. 第11回 まとめ・Q&A——合同会社型DAOの会計・税務、相談前に押さえる10の論点
  12. 第12回 一般社団法人という選択肢——合同会社型DAOと徹底比較する非営利型の会計・税務
  13. 第13回 DAOと寄付の税務——「応援のお金」は誰にどう課税されるのか
  14. 第14回 合同会社型DAOの決算実務——計算書類・社員資本・監査の要否(本稿)
  15. 第15回 暗号資産税制は「第二幕」へ——金商法移管と20%申告分離課税のロードマップ

番外編 DAOとAIエージェント——「自律する組織」の設計論

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